婦人科では最も重要な検査の一つです。
以下の疾患を検出可能です。卵巣の腫瘍(良性、悪性)、卵巣の卵胞の状態(正常、多嚢胞卵巣)。卵管の腫瘍と炎症、子宮の筋肉層の腫瘍 (子宮筋腫, 子宮肉腫)、子宮内膜の腫瘍 (良性であるが受精卵着床の障害になる内膜ポリープ、子宮内膜癌=体癌)、妊娠初期の状態 (正常妊娠、子宮外妊娠)、腹水の有無 (原因は、頻度の高い順に:月経や排卵に関連する生理的腹水、クラミジアなどの炎症、癌性腹水)、骨盤内の腫瘍、膀胱腫瘍、臓器の癒着 (原因は、炎症、内膜症、癌等)。診断の精度が問題ですので、当院ではシーメンス社の最新の超音波機器を使用しています。5年毎に機器を更新しています。
写真13:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)
写真14:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)
写真15:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)から発生した卵巣癌
会社、自治体、人間ドックで行われている簡易検査法 (スクリーニング)です。綿棒かブラシで膣壁から子宮膣部、および子宮頸管(頸部)を丁寧に擦過して細胞を採取し、検査センターに提出します。数日で結果判明しますが。精度が問題です。異常が出た場合は信頼性が高いですが、NILM(正常)と診断された場合、本当に正常なのかは不明です。NILM(正常)と診断された中に, 異形成も含まれています。施設によっては、進行癌でもNILM(正常)と出る場合(明らかに誤診)もあります。細胞診の精度は高くないです。精度に関する詳細な研究は少ないですが、一般的にHPV感染者の50%以上はNILM(正常)と診断されます。即ち、異形成の半数以上は細胞診で正常(NILN)と診断されます。軽度異形成だけでなく、高度異形成であっても、NILM (正常)と診断されることも稀ではありません。癌の専門医が検査をしても、組織診が「高度異形成」で、同じ日の細胞診が「NILM」であったケースは複数回経験しているはずです。手術ができないくらい進行した癌でさえ、NILMと診断されることがあります。当院に「不正出血」のために受診される患者様で、既に3-7cmの進行した癌があるのに、前医で異常なし(NILM)と診断されているケースが、毎年3-5名確認されています。残念なことです。子宮頚部の検診は、細胞診のみでは不十分と言わざるをえません。ヨーロッパの先進国では、子宮頸がんの検診に於いて、細胞診を行わず、HPV検査 (全部の型は確定しないが、陽性か陰性か、即ち感染しているかは分かる程度)のみを行っている国もあります。
しかしながら、それでも、細胞診が役立つ場合があります。頚部腺癌です。子宮膣部より少し奥の頚部の上皮に発生する腺癌については、組織診の器具が届きにくく、また、そもそもコルポスコープでも見えにくい場所なので、この部分は細胞診をしっかり行うことで、頚部腺癌、腺異形成が検出されることがあります。この様な理由から当院では、子宮頚部扁平上皮細胞も頸管腺(頚部)の腺細胞も両方とも採取できるよう工夫されたブラシを用いて、丁寧に行っております。判定結果がNILMであっても、うのみにせず、細胞所見を優先して判断しています。
以上、細胞診は異常と診断された時は信頼性が高く(特異性は高く)、NILM(正常)と診断されても、本当に異常が無いかは不明です(感受性は低い)。細胞診だけでは安心できません。子宮頚癌の一次検診には、細胞診だけでなく、HPV簡易検査 (正確な型までは分からないが、感染しているかどうかは分かる。費用1100-2200円程度) を併用すべきです。また、細胞診はあくまでも推定診断 (疑い診断)であり、病気の確定診断は組織診で行います。細胞診で異常を認めた場合、再度細胞診を受けて「異常なし」と診断されて安心してはいけません。細胞診は精度(感度)が低いので、再検して「異常なし」と出た場合、「異常なし」の方が正しくない可能性があります。細胞診で一度異常が検出されたら、正確な診断のためには、HPVの型を決める検査 (HPV typing)と組織診 (コルポスコープで子宮膣部から頚部を観察しながら行う) を受ける必要があります。
表1:子宮頚部における細胞診と組織診
1)通常の組織診:子宮膣部から頚部に酢酸を塗布して、コルポスコープで観察しながら、異常部位(異形成、癌組織) の肉片2-3 mmを切除(採取)します。病気の確定診断のための検査で、異常に見える(最も顔つきの良くない)部位の一部(1-2個)を切除して検査に提出します。出血するので、ひもや糸のついた綿球またはガーゼを挿入し、その日のうちに患者様ご本人に抜去してもらいます。組織診は診断目的ですから、異形成のごく一部を切除して、残りの異形成はそのまま残しておいて、進行していくか経過観察します。どこの病院(医院)でも組織診は診断目的で行っているので、異形成の部分を全部取り切ることは先ずありません(異形成の範囲が元々狭い場合は、診断的組織診で取り切れる場合があります)。
2)当院で行っている「治療的組織診」:癌研大塚病院勤務時代に、コルポスコープで見える異形成をできる限り沢山採取すると、異形成が改善していくことに気づきました。実際、高度異形成の診断で円錐切除術を100名に行うと、10-15名において、術後円錐切除標本の病理診断が「高度異形成」では無く、「中等度異形成」、「軽度異形成」、希に「異形成無し」という結果が得られました。手術前の組織診で高度異形成が取れていたのです。組織診は本来、「診断目的」の検査ですが、沢山、深く切り取ると、「組織診は小さな手術」としての役割を果たすことが分かりました。コルポスコープで確認できる異常(異形成)の部分を組織診で出来る限り切り取っていくと、HPVが駆除され、異形成のレベルもCIN III(高度異形成)→CIN II (中等度異形成)→CIN I (軽度異形成) →>Koilocytotic change alone (軽度異形成疑い=HPVは感染しているが、細胞がダメージを受けていない) へと改善していくことが分かりました。他院で円錐切除必要と診断されて、当院受診された方の約半数は組織診で緩解し(治り)、円錐切除をしないで済んでいます。当院では、組織診を「診断目的」だけではなく、「治療目的」でも行っています。「組織診による治療」=「円錐切除をしないで、組織診で治す」これが、当院の大きな特色の一つです。
異形成の管理上、最も重要な検査です。当院では、現在検出可能な全ての型を調べることができます。
現在日本で行われているHPV検出の検査は、概ね以下のごとくです。
1)簡易型type I
HPV-DNA検出 (Hybrid capture法):型は一切特定出来ない。HPVに感染しているか否かだけを調べる検査。
2)簡易型 type II
HPV-DNA簡易ジェノタイプ (real time PCR法):16型か18型か、それ以外の型に感染しているかが分かる検査。16,18型は、high risk型 (全部で15種類ある) の中でも、頸癌に進行する確率が最も高いこと、また頸癌の中でも特に質の悪い頚部腺癌の原因であること、頸癌以外に、中咽頭癌、肺腺癌、食道癌、舌癌、肛門癌など全身の癌のriskがあるので、この二つだけは明らかにしておこうという検査。
これら2つの簡易検査は、細胞診異常と判定された方には向いていません。「細胞診異常=HPV感染」ですから、細胞診で異常と診断されたら、HPVに感染しているか否かを調べる意味はありません。DNA型別検査を受けるべきです。簡易検査は、無症状で性交経験のある方の一次検診(いわゆる子宮頚癌健診)の際に行われると有効です。細胞診は感度が低いため、どうしても見落とし (異形成なのに正常と判断される事)が多くなります。細胞診にこれら簡易型type I, IIのいずれかを併用することにより、異形成の発見率が格段に向上します。自治体の頸癌の検診は、「細胞診単独」ではなく、「細胞診+簡易型HPVの検査併用」に今直ぐにでも変更されるべきです。極論すると、細胞診単独より、簡易型でもHPV検査単独の方が、子宮頚癌健診の感度 (異形成の発見率)は高くなります。
3)保険適用のHPV検査(High risk型13種類のみを調べる)(表2) 厚生省が認可した保険適用のある検査です。
保険点数2000点=20,000円、3割負担の場合 本人負担費用は6,000円(患者が加入している健康保険組合からクリニックに14,000円支払われる仕組み。)保険適応があるので、 日本のどの施設でも検査可能です。但し、この検査には、1) そもそも13種類のHPVの型しか検査できないこと、2) false negative (偽陰性:感染しているのに陰性と判定されること) が少なくないこと、3) 新生児の喉に感染すると、生命にかかわる「呼吸器乳頭腫症」の原因HPV 6,11が検査対象に入っていないこと、等の問題点があります。妊娠希望のある方には推奨できません。USA Today Jan 13, 2013: False-negative results found in HPV testingに米国での詳細が記載されていますので、参照して頂ければ有り難いです。内容を理解された上で、このHPV-13型検査を希望される場合は、先ず組織診を行い、その結果が「軽度異形成」または「中等度異形成」と判明した後、別の日(後日)にHPV-13型検査が保険適応となります。同日には検査できませんのでご確認して下さい(厚生省の規定)。また、「高度異形成」の場合は保険適応の対象外とされています (厚生省の規定)。
表2:厚生労働省が認可した保険適用のHPV-13型別検査法
表3:当院におけるHPV型別検査法:型と癌化のriskとの関係
4)当院の型別検査 (PCR-rSSO法)(表3)
HPV型判定検査は、異形成の管理の上で最も大切な検査です。当然ですが、日本で検査可能な全ての型を調べる必要があります。インフルエンザの型は、A型、B型、季節型、香港型等の名前がついていますが、HPVはあまりにも種類が多く、名前を付けているときりがないので、国際的に名前を番号にしようと決められています。「52型のHPV」という様に表現します。
後で異形成について説明しますが、異形成があること自体は問題ではありません。最も大切なことは、異形成が癌化するかどうかです。これは、HPVの型で決まります。人命にかかわるので、現在検査可能な全ての型を調べる必要があります。
当院で検査可能な型は
6,11,16,18,26,31,33,35,39,42,44,45,51,52,53,54,55,56,58,59,61,62,66,68,70,71,73,82,84, 90, CP6108の31種類です。HPVは国際的には、High riskと Low riskに大雑把に二分されていますが、当院では4段階に分類しています(Worst type最悪、High risk=危険, Moderate risk=癌化のrisk少しあり, Low risk=癌化のriskほぼなし)。表に示したように癌化の可能性が高いいわゆる”high risk”型は15種類あります。私が2003年11月から検査を開始してからのdataに基づくと、最も危険な最悪の型 (worst type)は16, 18。次にriskが高い(dangerous)のは、31,52,58,45,33,82,35。high risk型の残り 6種類 (39, 51,56, 59, 66, 68)は, 16,18のような質の悪い特殊型(頸部腺癌、小細胞癌など)の原因でもなく、短期間で癌化することも希で、ちゃんと通院すれば、あまり怖くない型です。26, 53, 70, 73は国によってはhigh risk型に分類されていますが、当院のdataから、high riskに認定しておりません。Moderate risk (癌化のrisk少しあり)と分類。6, 11, 42, 44, 54, 55, 61, 62, 71, 84, 90, CP6108 型は、Low riskで、癌化のriskはほぼありません。
16,18型は、単に子宮頸癌のriskが高いだけではありません。子宮頸癌は組織型(顔つき)により、扁平上皮癌(子宮膣部に発生しコルポスコープで観察可能、癌の性質も比較的わかりやすく、治療し易い癌。頸癌の80%)と腺癌(膣部より奥の頸部に発生し、塊を作らないため、コルポスコープで見えにくい。癌の性質も把握しにくく質の良くない癌。頸癌の20%、増加傾向あり)に二分されます。16,18は質の悪い(予後不良の)腺癌の原因でもあります。更に、特殊な組織型で、進行が早く根治が困難な予後不良の神経内分泌型腫瘍と悪性腺腫の原因でもあります。まだあります。16,18は、経口感染による中咽頭癌 (喉の癌)、肺癌(腺癌)、舌癌、食道癌、肛門感染による肛門癌などの原因であることも判明しました。子宮頚部以外の癌の原因でもあるので、男性も他人事ではありません。16,18は「子宮頚癌の原因virus」というより、純粋に「危険な癌virus」と考えて、女性も男性も全身管理が必要になってきます。
このような事から2000年頃にはHPV 4価vaccine (Gardasil)が米国で開発。有効性と安全性が確認された後に、2006年に世界一斉に発売され、女性だけでなく男性にも接種が開始されました。日本は, Gardasil発売後に遅れて開発された2価しか効かないVaccine (Cervarix)を2009年12月に先行認可、輸入開始しました。そして、当時既に世界で普及し始めている4価vaccine(Gardasil)の輸入開始を、2011年8月まで遅らせてしまいました。この2つのVaccineの許認可の順序等に関しては理解不能です。日本の他の分野の政策等と同様に、政治的要因があるのでしょうか。HPV vaccineについては別の項に記載します。
癌以外に、HPV感染が原因の厄介な疾患があります。「乳幼児に発生する呼吸器乳頭腫」です。日本では認知度は低いですが、極めて稀という程、少なくないです。難治性で悲惨な病気です。出産時に新生児の喉にHPV 6または11型が感染した場合、出産直後では無症状ですが、1歳から3歳の間に声が嗄れたり、呼吸状態の異変で母親が気付くことが多いようです。90%以上はHPV 6,11型が原因です (66,70型でも発症することがあります)。HPV 6,11に感染して妊娠した場合、帝王切開することで、乳頭腫を予防可能です。
「乳幼児呼吸器乳頭腫」の治療は耳鼻科医による手術ですが、手術自体で喉が腫れて呼吸困難になるため気管切開(長期間留置)をすることもあります。手術で乳頭腫を切除しても、直ぐに再発することが多く、1年に3-6回手術のために入退院を繰り返し家族も大変です。一般的な小児科健診では見逃し(見落とし)もあるようです。いきなり呼吸困難で発症した場合、生命を脅かすこともあります。前述した厚生省が認可した保険適用のHPVの検査 (HPV-13:米国Beckton-Dickinson社製Surepath)では、HPV 6, 11が検査対象になっていないので、今後妊娠する可能性のある方にはお勧めできません。異形成と診断された場合、全てのHPVの型を正確に調べることが、管理の基本となります。
癌研大塚病院 で (故増渕一正名誉院長により)開発された方法。
やわらかいチューブを子宮内腔に挿入して、内腔(体部)の細胞を陰圧をかけて吸引して採取する方法。メリットは、「とにかく痛くない」。擦過する場合に比べて、掃除機のように隅々まで吸引するので、精度が高い、出血しない。早い、等です。欠点は、ちょっとした技術が必要で日本全国に普及していない事です。
子宮内膜細胞診で異常を認めた場合、または経腟超音波で子宮内膜に異常が認められた(内膜が年齢不相応に厚い、内膜の辺縁が不整、腫瘤存在、血液貯留など) 場合に行います。超音波検査で子宮内膜の状態を確認して、子宮に局所麻酔 (キシロカイン 10 ml)を行い、子宮内膜組織を掻き出します (掻爬術=そうは じゅつ)。静脈麻酔(眠ってしまう)は行いません。検査時間は局所麻酔を含めて5分前後です。検査終了直後に痛みがある場合、ボルタレン座薬50mg挿入、またはロキソニン錠を内服して頂きます。5名の内一人が、検査後ベッドで30分程度安静にされた後に帰宅して頂いています。感染予防の抗生剤と痛み止めが処方されます。通常、翌日来院は不要です。この検査で確定診断が得られたら終了。この検査結果を医師が不十分と判断した場合、入院して全身麻酔のもと、より詳しく子宮内膜の全面掻把(より広く深く掻き出す)が必要になる場合もあります。
血液検査には、保険が適応されるものと保険適応外の検査があります。
1)保険適応の血液検査
2) 保険適応外
3)Bridal check(基本的には保険適応外)
Bridal checkといわれている検査は、将来妊娠希望のある女性が受けた方が良い検査です。自費検査です。検査項目は、以下のごとくです。
生命に関わる3大疾患、癌、血栓、心不全に関するマーカーを血液検査で行っております。腫瘍マーカー(癌を見つける、前癌で発見される場合もある)、血栓マーカー (心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞の予知マーカー)、心不全マーカー(突然死の予知マーカー)です。これらの検査こそ、人間ドックの必須項目にすべきです。ところが、多くの健診センターでは、腫瘍マーカー (多くの場合3-5項目)と心不全マーカーはOptionにされており、必須項目に含まれていません。そして血栓マーカー (d-dimer) に至ってはoptionにもなっていません(受けることが出来ません)。生命に関わる、癌、心不全、血栓が必須項目になっていないのでは、人間ドックを受けたからといって、生命に関する安心感が得られないということになります。そこで、当院では、これら生命に関わる3項目を血液ドックとして、行っております。40歳前後から、毎年一度受けられることを推奨します。最近、膵臓癌予防目的で膵炎の原因となる膵酵素3種類と骨粗鬆余地マーカーを加えました。
当院は婦人科腫瘍クリニックですが、女性だけでなく、男性も検査が可能です。血液ドックのみ受けられる場合、診察はないので、基本的に待ち時間は事務手続きのみです(5-10分)。採血を受けて、結果郵送の返信用封筒にご住所を記載して頂き終了です。
脳腫瘍、喉頭癌、咽頭癌には腫瘍マーカーがありません。それ以外の殆どの癌で腫瘍マーカーがあります。当院では全ての腫瘍マーカーが検査可能です。中でも信頼性の高い、AFP, CEA, CA 125, CA 153, CA199, SCC, Dupan-2, NSE, SLX, Pro-GRP, CYFRA, Elastase, PIVKA-II, 抗p53抗体(免疫マーカー, 将来腺癌になるかを推定する)、抗ピロリ抗体(胃癌の原因の菌に感染しているか分かる検査)の15種類を調べています。これらの内、各患者様に必要と思われる11種類をセットで行います。費用は20000円です。一項目約1,820円です。人間ドックなどでは、腫瘍マーカーがoptionになっていますが、受診者が数多くのマーカーの中から必要な項目を選ぶことは困難です。多くの検診センターで、女性ではCEA, CA199, CA125, CA153, AFPの3-5種類のみをoptionとしています。この5種類でもかなりの癌を検出可能ですが、肺癌や膵臓癌等致命的な癌の全ての組織型に対応するためには、その他のマーカーも加えて詳しく検査した方が検出率は上がります(より安心感が得られます)。当院では、脳腫瘍、咽頭、喉頭癌(これらの腫瘍にはマーカーがありません)以外の固形癌の腫瘍マーカー (上記15種類) に加えて、2020年からIL-2R(悪性リンパ腫)も検査可能としました。採用した理由の第一は、悪性リンパ腫が最近増加しているからです。また、0歳から100歳まで、全年齢に発症しうる悪性腫瘍です。しかも体中のどこにでも発症するので、検診体制もありません。発症してから診断に至るまでの時間も長くかかることが多いようです。早期に発見されると治癒率は高いです。採血でのIL-2Rの値は重要な情報になります。是非とも普及させて欲しい検査です。IL-2Rの検査費用は元々高額です。厚生労働省が決めた保険点数はCEAの約2.4倍の費用がかかります。一般の検診センターで実施したら、10,000円以上になると推定されます。当院でのIL-2Rの検査費用は3000円です。前述した腫瘍マーカー11種類にIL-2Rを加えると23000円です。これで十分と思われますが、腫瘍マーカー16種類全部御希望される場合、検査費用は30,000円です。他院で腫瘍マーカー検査を受けられ、不足分だけ希望される場合もoptionとして可能です。血液系の腫瘍マーカーであるWT-1(骨髄異形成、白血病マーカー)は検査費用が高い(実施料:2520点=25200円)こと、一般の血液検査で推定診断できることから現時点では採用しておりません。
男性の場合、基本的に全部をセットにしており検査費用は30000円です。
表4:当院の血液ドック
2019年の日本女性の癌死因の第1位は大腸癌、2位肺癌(腺癌)、3位膵臓癌、4位乳癌、5位胃癌です。男性は肺、大腸、胃についで第4位です。しかしながら、膵臓癌の順位は毎年ランクが上昇しています。2016年は第6位、2019年は第3位です。今までのペースでいくと、2023年前後には女性では癌死因の第一位(男性は肺癌に続き第二位)になる可能性があります。このことは全国民が知るべき事実です。当院としては、緊急事態宣言を出しました。
驚くべきdataがあります。膵臓癌は最近30年間で約8-10倍に急増しているようです(東京医大 祖父尼淳 医師). 2019年のdataでみると、子宮頸癌は年間10879人が発症し、2887人が死亡、死亡率26% (5年生存率 77%)です。膵臓癌は、年間43865人(女性21579人、男性22286人)が発症し、37677人(女性 18797人、男性 18880人)が死亡。死亡率86% (5年生存率 9%)です。なんと、女性の膵臓癌は年間の患者数が頸癌の2倍で、死亡者数は頸癌の6.5倍です。さらに、子宮頸癌、子宮内膜癌(体癌)、卵巣癌全部合わせた婦人科癌死亡者数が10407名ですから、膵臓癌患者死亡者数(女性18797名)は、婦人科癌全部の死亡者数の2倍近く多いことが分かります。しかも膵臓癌は急増していますから、この比率はますます拡大していくことになります。膵臓癌はNetでは、60歳以上に多いと書いてあるsiteもまだあるようですが、それは以前のdataです。実際には膵臓癌の1/3は60歳以下で、35歳から急増します(AIC八重洲クリニックのdata参照)。
膵臓癌が他の腫瘍と違うのは、早期発見が困難、しかも早期発見(stage IA:腫瘍径<2cm)しても完治出来ない (5年生存率 47%)ことです。早期発見しても助からないなら、膵臓癌検診をしても安心できません。癌検診の目的は、自覚症状のない段階で癌を早期発見 (stage I)すれば、助かる(完治する)ことが多いからです。予後不良の肺癌、胆嚢癌でさえ、stage Iであれば、5年生存率80%以上です。子宮頸癌、乳癌、胃癌、大腸癌等は5年生存率:90%以上です。早期発見(stage I)すれば治る事が多いのが、現在の癌治療です。ところが、膵臓癌はstage Iでも、生存率が50%以下、10年生存率も30%以下です。従って、膵臓癌に限り、早期発見をしても治る確率は低いということです。早期発見しても助からないなら、膵臓癌の危険因子(原因)を見つけて予防するしかありません。国内外のdataをじっくりみていると、興味深いことが分かりました。他の癌との違いは、早期発見(stage I)しても、助からない事以外に、罹患率、死亡率に男女差が全くないことです。多くの癌で、発症率(および死亡率)に性差があります。例えば、女性に多い癌は、乳癌、甲状腺癌、結腸癌、肺腺癌などです。男性の方が多い癌は、口腔内、食道、喉頭、胃、直腸、肝臓、膀胱癌です。比較的性差が少ない癌は、リンパ腫、脳腫瘍、多発性骨髄腫などです。ところが、膵癌は、2019年のdataでみると、患者数は女性:21579人、男性:22286人で、死亡例は、女性:18797人、男性:18880人で、性差が全くありません。しかも、20年前と比較しても急増しています。これが、膵臓癌発症の原因を究明する糸口になるのではないでしょうか。
男女差が無いと言うことは、ホルモンが原因でもなく、酒やたばこのような嗜好品が原因ではないと考えられます。原因は生活必需品の可能性が高いです。必需品と言えば、空気、水があげられますが、癌の原因にはなりません。そうです、毎日食べているものです。主食の米、おかずのタンパク質=肉です。日本の食事について、1970年頃からの推移を見ていくと答えが見つかりそうです、主食の米は1979年頃からコシヒカリが普及し始めています。また、赤い肉(4足の肉)及びその加工品が1980年代から急速に普及しています。白米、白い食パン、白いパスタは、アミラーゼで分解され、赤い肉(牛、豚などの4足の肉)はリパーゼで分解されます。これらの食品を多く取り過ぎると膵臓から膵アミラーゼ、リパーゼが大量に分泌されます。これらの酵素は、食べ物を分解して仕事が済んだ後、まだ余っていると膵臓自身を消化(自己消化)します。消化された膵臓の部分に穴が空きます。これが膵嚢胞です。そしてそこからいろいろな経由を経て、膵臓癌が発生する可能性があります。膵臓から分泌される酵素、膵アミラーゼ (アミラーゼではありません)、膵PL2, リパーゼの3種類が代表的な膵酵素です。これらの内一つ以上が異常に上昇していると、その酵素に対応する赤い肉(4足の肉)、または白い食品(白米、白い食パン、白いパスタなど)を食べ過ぎていると考えられます。そして増えた酵素が、食べ物だけでなく、膵臓自身を溶かしてしまいます。上昇した酵素を薬で下げる必要があります。このような状態が、無症状膵炎として膵癌のRiskありと判定されます。
膵癌危険因子の表 (健康な人との比較での発症率)をみると、危険因子は、1) 慢性膵炎(多くは無症状):健常人の13倍危険、2) 家族性 (遺伝):健常人の7倍危険、3) 糖尿病II型:2倍危険、3) 肥満:2.8倍危険, 4) 膵嚢胞(IPMN含む):3倍危険 (健診や人間ドックの超音波、MRI/CT等で診断可能)、5) 喫煙(1本でも危険):1.7倍危険、6) 過度の飲酒 (Beer:900ml以上、Wine:グラス3杯以上は危険):1.2倍危険、などです。これらの内、慢性膵炎(多くは無症状)が健常人の13倍と飛び抜けて危険であることが分かります。膵臓癌の予防のために、当院で出来ることは、肥満の管理(白いものを食べない:白米、白い食パン、パスタ等を控える)、糖尿病II型 (通常の健診の検査HbA1Cの値で分かります、確認して下さい)の患者様に対する注意喚起 (食事指導とMR-CPの実施)に加え、何と言っても「無症状膵炎の発見」であると気づきました。
当院は婦人科腫瘍のクリニックですが、この現状を知ってしまうと婦人科のcheckだけをしているだけでは患者様の命を守れません。来院されている方にこの状況をお伝えし、採血で無症状膵炎を見つけ出し、膵癌を予防するprojectを開始しました。「無症状膵炎」の採血の検査項目は、膵アミラーゼ (一般に健診で行われているのはアミラーゼですが、これでは唾液アミラーゼも含まれており正確ではありません)、膵PLA2、リパーゼ、の3項目です。健診センターではアミラーゼを調べているところはありますが、上記3項目を検査している健診センターは少ないようです。当院では2022年10月から、これら3項目の検査を開始しましたが、陽性者は予想以上に多く驚いています。やはり食生活が原因の一つと考えられます。3項目の内、一つでも陽性(以上高値)であれば、食事管理をして頂いた上で、膵炎の薬を服用し、上昇した酵素を正常化して、膵臓癌riskを下げます。また同時に、膵臓癌の超早期発見に真剣に取り組んでいるAIC八重洲クリニックでMR-CP (Magnetic Resonance Cholangio-Pancreatography:膵臓疾患に特化した特殊なMRI)を受けて頂き、膵嚢胞、膵IPMN分枝型(癌化のrisk低い)か主膵管型(癌化のrisk高い)か,主膵管拡張の有無等を詳しく診断してもらいます (保険適応です)。明らかに前癌状態で厳重管理必要、あるいは治療が必要と診断(判定)されたら、当院と連携している膵臓癌のBest Doctorsを直接紹介致します (病院宛ての紹介ではありません)。定期的follow upで良いと診断された場合、AIC八重洲クリニックでの指示に従い、6ヶ月あるいは1年毎にMR-CPを受けて頂き、厳重管理してもらえるので安心です。膵臓癌は予防不可能ではありません。無症状膵炎、膵嚢胞 (IPMN含む)、糖尿病、肥満、禁煙、過度の飲酒を管理して、予防しましょう。当院での膵臓癌の危険因子3項目膵アミラーゼ、膵リパーゼ、膵PLA2の検査(採血)費用は 5000円です。
表5:急増している膵臓癌と婦人科の比較
がん死亡数の順位(2019年)
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | |
男性 | 肺 | 大腸 | 胃 | 膵臓 | 肝臓 |
女性 | 大腸 | 肺 | 膵臓 | 乳房 | 胃 |
表6:2016年膵臓癌は第6位でした。
膵臓癌の危険因子
表7:35歳から急増する膵癌
表8:膵癌の危険因子
表9:膵酵素の上昇は危険
表10:膵癌予防の食事療法