ウイメンズクリニック南麻布

ウイメンズクリニック南麻布
港区 南麻布の婦人科,子宮頸部異形成(HPV),婦人科腫瘍,更年期,ピル外来,セカンドオピニオン外来

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子宮内膜症

概要

子宮は内側(中)と外側の単純な二重構造で出来ています(図1参照)。
内側には赤ちゃんのベッドとなる子宮内膜(豆腐のように柔らかい粘膜)があり、外側は内膜を包み込んで守る筋肉から出来ています(子宮筋層)。子宮内膜は卵巣から分泌される女性ホルモン(Estradiol=E2)により2週間かけて作られます。その後卵巣から分泌される黄体ホルモン(Progesterone)により、子宮内膜は受精卵が着床しやすいように柔らかくなり、内膜完成後2週間剥げ落ちないように維持されます。2週間待っても、受精卵(卵管内で受精します)が子宮内にやってこないと、維持するのを辞めて、子宮内膜は子宮筋層から剥がれ落ちます。そして、筋層から剥がれるときに血管が切れて出血します。その血液と子宮内膜が一緒に膣経由で体外に出てきます。これが月経です。

子宮内膜は2日以内に子宮筋層から剥がれ落ちますが、子宮内膜と血液が外に出る通り道である子宮頚管(長さ:約3-3.5cm)の通路の幅は狭いので、2日で剥げ落ちた内膜と血液が全部出てしまうのに5-6日かかります。もし、子宮頚管の幅が広ければ月経は2日前後で終わるはずです。ところが子宮頚管が狭いので、月経中、子宮内腔には 剥げ落ちた子宮内膜と血液がいっぱい溜まっており、一部は卵管を通ってお腹の中(骨盤内)に逆流します。実際、婦人科で行う手術日が月経期間に重なった場合、お腹の中には子宮内膜と血液が溜まっている様子を術者(医師)は確認出来ます。特にお腹の一番底の部分(ダグラス窩)には血液と子宮内膜細胞がいっぱい溜まっています。逆流した子宮内膜の細胞はまだ生きており、骨盤内の腹膜や臓器の表面に付着すると、そこで自家移植されて育っていきます。お腹の中(腹腔内)にはリンパ液があり、リンパ液は腸の蠕動(ぜんどう=腸の動き)と同じく時計回り(右->左->右へ)にお腹の中をぐるぐる回っています。子宮内膜細胞はそのリンパの流れに乗り、肝臓の表面や横隔膜の下面、さらには横隔膜を通過して右の肺や胸膜の表面に付着し自家移植されて、成長します。

子宮内膜の細胞が本来の子宮の内腔以外に自家移植されて成長していくと、数ヶ月後には子宮内膜組織は肉眼でも見えるほどの大きさになり、本来の子宮内膜の月経周期に合わせて(同調して)自家移植された異所性内膜細胞組織で月経が起こるようになります。これを「子宮内膜症」と言います。一言でいうと、「子宮内膜症とは、子宮の中(内腔) 以外で月経が起こること」です。異所性子宮内膜組織は、女性ホルモン(Estradiol=E2)に依存して、毎月成長していきます。
また、子宮内膜細胞は血管やリンパ管の中に入り込み、管の中を通って(まるで癌細胞が転移するように)、体中の何処にでも入って行き、自家移植されます。卵巣の中に入れば「チョコレート嚢胞」、子宮の筋肉の中に入れば「子宮腺筋症」です。脳の中に入っていくと、脳内の子宮内膜症です。普段は無症状、月経中だけ頭痛が起こる場合は要注意です。脳の子宮内膜症は脳のMRI検査で診断可能です。因みに子宮内膜症とは無関係な女性特有の頭痛は、月経直前に起こります。

注意すべきことがあります。異所性子宮内膜は、本来の子宮の中とは環境が異なるために、正常な成長をしないで、癌細胞への化生(細胞が変化すること)を起こすことがあります。これが、卵巣子宮内膜症から発生する卵巣癌です。私はこの現象を、1990年頃病理学的に証明しました。
子宮内膜症は、子宮の周りの骨盤内だけでなく、全身どこにでも発症することを理解して頂きたいです。

言葉(用語)の違いに注意!!「子宮内膜症」と「子宮内膜増殖症」(表1)

「子宮内膜症」は、正常な子宮内膜が、本来の子宮内腔とは別の場所(違う所で)で増殖していく病気です。卵巣の中に出来た子宮内膜症は卵巣癌の前癌状態です。一方、「子宮内膜増殖症」は、女性ホルモン(Estradiol=E2)等の影響で、正常な子宮内膜細胞に遺伝子変異が生じ、正常内膜細胞が異型内膜細胞(癌に近づいた状態)に変化(化生)して、元の子宮内腔で異常増殖した状態です。子宮内膜増殖症は、子宮内膜癌(子宮体癌)の前癌状態です。これら二つは、女性ホルモン(Estradiol=E2)が関与しているという共通点はありますが、別の病気です。混乱しないようご確認下さい。


表1:「子宮内膜症」と「子宮内膜増殖症」


図1:子宮内膜症 (部位別):子宮を正面から見た図


図2:子宮内膜症 (部位別):子宮を側面から見た図

子宮内膜症の出来る部位

子宮内膜症は、発症する(異所性子宮内膜が出来る)部位によって5つに分けられます(図1, 2)

骨盤腹膜内膜症:お腹の一番底の部分(ダグラス窩)の腹膜で月経が起こります。骨盤腹膜内膜症の初期では、月経中はダグラス窩に溜まった子宮内膜細胞と血液が直腸を刺激して、普段よりも便が出やすくなります。軟便や下痢になる場合もあります。子宮内膜症の中で最も高頻度です。経腟超音波で診断することは困難です。MRIで診断可能です。

卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞):卵巣子宮内膜症がある場合、ほぼ全例で骨盤腹膜内膜症が併存します。卵巣の中で毎月月経が起こり、月経血の逃げ場がないので、卵巣嚢胞内に月経血が溜まり嚢胞全体が毎月大きくなります。嚢胞内に溜まった血液は最初サラサラの真っ赤な色ですが、時間が経つと茶褐色になりドロドロのチョコレートに似ているので、米国では「chocolate cyst=チョコレート嚢胞」と呼ばれています。患者様は大きさに関心を示されますが、サイズが大きくなるかという量的変化よりも、質的変化がより大切です。卵巣の中に存在する子宮内膜細胞は居心地が良くないため、女性ホルモン(Estradiol=E2)の影響を受けて、癌細胞に変化(化生)することがあります。内膜症の癌化です。癌化した場合の組織型は、「類内膜腺癌」か「明細胞腺癌」です。同じ卵巣癌でも、後者は予後不良です。経腟超音波で容易に診断出来ます。

・子宮筋層内(子宮腺筋症):子宮の筋肉の層 (筋層)に正常子宮内膜の腺組織が侵入(自家移植)し増殖していくので、「子宮腺筋症」と呼ばれています。月経過多による貧血と鎮痛薬を必要とする強い月経痛が特徴です。経腟超音波で容易に診断出来ます。

・深部子宮内膜症(DIE: Deeply Infiltrating Endometriosis):腹膜表面から5mm 以上浸潤した子宮内膜症と定義されています。ダグラス窩=子宮と直腸のすきまに子宮内膜が生着し進行例では ダグラス窩が完全に閉鎖することもあります (Frozen pelvis)。この場合、排便痛は強くなり、鎮痛剤が必要になります。排便痛が尋常では無いこともあります。経腟超音波では診断は難しいです。MRIで診断可能です。

・他臓器子宮内膜症骨盤内(卵管、膀胱、尿管、大腸、虫垂、直腸、膣、鼠経靱帯=足の付け根)に加え、骨盤外の臓器(外陰部、臍、腎臓、肺、胸膜、脳など全身)にも起こります。本来の月経周期に同調して、異所性子宮内膜症の部位で月経が起こります。内膜症のある部位に痛み(月経痛)が生じます。鼠径部や臍では、月経血の凝塊を触れることが出来ます。

子宮内膜症の危険因子
・遺伝:母親が子宮内膜症
・早発月経:11歳未満に月経開始
・月経周期が短い:平均27日未満(1年間の月経回数が多い)
・月経持続期間が長い:7日以上
・出産経験無し(当然授乳経験無し)。 毎月月経がある。
・pill服用経験なし。

 子宮内膜症のriskを下げる因子
・初潮が14歳以降
・10代からのpillの継続的内服
・妊娠と母乳育児
・アブラナ科の野菜(ブロッコリー。カリフラワー)の継続的摂取
・柑橘系の果物を食べる

症状
子宮内膜症が発生している部位、臓器により症状は異なります。
子宮内膜症の主な症状は、月経時の腹痛、腰痛で、約80%以上に認められます。元々月経痛はなく、ある時から月経痛が出現し、次第に月経痛が進行していくことが特徴です。但し、卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)では、長径5cmくらいまでは月経痛が無い場合もあります。また、月経中は、子宮内から卵管を通じて腹腔内に逆流して、ダグラス窩(骨盤の底)に溜まった子宮内膜細胞と血液が直腸を刺激するために、普段より便が出やすく、軟便や下痢の場合もあり、排便が頻回になる傾向があります。このように月経中に便が出やすくなる方は、子宮内膜症が発生しているか、予備軍と考えてください。子宮腺筋症では鎮痛剤を必要とする強い月経痛と、過多月経(月経量が多く、塊も出る)により貧血症状が認められます。最も頻度の高い骨盤腹膜内膜症では、骨盤の底のダグラス窩が癒着で埋まってしまうこともあります(frozen pelvis)。子宮の背部が周囲組織(卵管、大腸、大網、腹膜など)と癒着し可動性がなくなることから、「排便通」に加え「性交痛」も出現、次第に増強します。骨盤外の臓器の内膜症では、月経中に異所性子宮内膜が存在する部位が痛みます。が痛い(臍)、右鼠径部が腫れて痛い(右鼠径部内膜症)、頻尿や血尿(膀胱子宮内膜症)、頭痛(脳の子宮内膜症)など。肺(主に右肺)の子宮内膜症では月経時に、右肺が痛くなる他に、肺に穴があいて「気胸」を発症し、咳、息苦しさ等が出現します。緊急治療が必要です。また、卵管や卵管采などの癒着が原因で、内膜症の20-30%前後が不妊症を発症すると言われています。

診断
・問診:元々無かった月経痛がある時から出現、月経中に子宮以外の部位に痛みが出現し次第に増強する、など患者様の自覚症状を聞き出すことで診断可能。
・内診:骨盤腹膜内膜症、深部子宮内膜症、卵巣子宮内膜症は内診中に触診で分かります。触診すると異常に痛みを感ずる(時には飛び上がるほど痛い)ことで診断可能。
・経腟超音波(写真1,2,3):子宮内膜症の診察に於いて最も有用な検査です。卵巣子宮内膜症、子宮腺筋症の診断は容易にできます。卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)から発生する卵巣癌の診断も超音波検査で可能です。一方、骨盤腹膜内膜症や深部子宮内膜症などの診断は超音波では困難です。


写真1:初期の卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)


写真2:進行した卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)


写真3:チョコレート嚢胞壁から3カ所、乳頭状に卵巣明細胞癌が発生

・MRI:超音波検査との違いは、卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)や子宮腺筋症以外の内膜症の存在も詳細に分かる点です。子宮内膜症の診断において、最も精度の高い必要不可欠な検査です。骨盤腹膜内膜症、深部子宮内膜症,骨盤内の臓器の癒着も分かります。脳の子宮内膜症もMRIで診断可能です。但し、肺だけはCTの方がMRIよりも診断精度が高いです。


写真4:卵巣子宮内膜症から発生した卵巣明細胞癌のMRI画像: このcaseは、他院で子宮内膜症(チョコレート嚢胞)と診断(誤診)されて腹腔鏡手術(適応外)を受けた後に、私の勤務先に2nd opinionで受診されました。他院の初回手術前のMRI画像で容易に卵巣癌(矢印の部分が癌)と診断できます。私どもで卵巣癌としての拡大手術で残存癌組織を摘出して、完治しました。

・血液検査:腫瘍マーカーCA125が上昇します。治療の効果判定に使用します。また、ホルモン状態(脳下垂体―卵巣系)を確認して治療の必要性を判断します。既に閉経状態にあればホルモン療法は不要とされています。但し、閉経後も脂肪組織から女性ホルモン(E1=Estrone)が分泌され、癌化のriskは残ります。私自身は、閉経後に脂肪組織内でEstroneを分泌させるAromatase(酵素)の活性を抑える薬Aromatase-inhibitorを使用するとチョコレート嚢胞から卵巣癌への癌化を抑えることが可能になるのではないかと考えております。今後の研究課題です。更年期の場合は、不規則ながら女性ホルモン(Estradiol=E2)が分泌されているので、ホルモン療法は必要です。

子宮内膜症の自然経過

子宮内膜症は女性ホルモン(Estradiol=E2)に依存した(エストロゲンが餌の)疾患です。従って、月経がある限り、子宮内膜症は進行します。特にダグラス窩の病変は、卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)と子宮背部、卵管、腸管などとの間で癒着が生じ、最終的には骨盤内のスペースが消失する(Frozen pelvis)ことも稀ではありません。この状態になると、月経とは無関係に排便痛もひどくなり、生活に支障をきたします。また、卵巣子宮内膜症は一定の割合で癌化します(卵巣癌)。大きさと年齢による頻度が学会から発表されていますが、20代で、4-5cmのサイズでも癌化は稀ではありません。各患者様に対して丁寧に定期的に経膣超音波で厳重管理しないと致命的になります。閉経すれば卵巣からの女性ホルモン(Estradiol=E2)は消失し、子宮内膜症の病勢は止まるので、関連する様々な症状は改善、あるいは消失します。但し、閉経後も脂肪内のAromataseから別の女性ホルモン(Estrone=E1)が分泌されるので、内膜症が癌化する確率がゼロにはならないことに注意が必要です。体脂肪が増えるとAromatase活性が上昇して危険ですから、閉経後も太らないようにすることが大切です。

徹底した食事管理(dietary management)を行うと、月経痛が改善し、子宮内膜症の進行が緩やかになったり、病気自体が改善する場合もあります。具体的には、赤い肉(4足の肉)を食べない豆乳を飲まない、アブラナ科の野菜を毎日食べる。ケール、ブロッコリー、カリフラワーは特に有効です。その他、ルコラ、大根、白菜、キャベツ、小松菜、わさびなど、いずれかを毎日食べる。因みにキャベツと似ているレタスはアブラナ科では無くキク科です。キャベツはレタスと比べ、タンパク質は2倍、Vitamin Cは8倍多く (葉酸とナイアシンは同等)、レタスには申し訳ありませんが、アブラナ科のキャベツに軍配があがります。ホルモン療法に抵抗がある方は、食事管理をしっかり行って下さい。但し。徹底しないと効果はありません。

子宮内膜症に対する治療の目的
・卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)の場合、癌化を予防。
・妊娠希望のある女性では、早期発見早期治療を開始して、不妊を予防
・月経困難症など生活に支障のある症状を改善、消失させる。
・手術を行うことなく、病巣の縮小、完解を目指す。

治療方法

1) 治療の原則
子宮内膜症は女性ホルモン(Estradiol=E2)依存性の(女性ホルモンを餌にした)疾患ですから、基本的な治療方針は子宮筋腫の場合と同じです。治療には、ホルモン療法手術療法がありますが、治療の主体はホルモン療法です。ホルモン療法には、女性ホルモン(Estradiol=E2)を減らすだけの比較的優しい治療(低用量pill)、女性ホルモン(Estradiol=E2)の働きを抑える黄体ホルモン療法、さらには女性ホルモンを限りなくゼロにするLH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス注射、リュープリン注射)またはLH-RH(Gn-RH) antagonist(レルミナ錠)による最も有効な偽閉経療法の3種類があります。女性ホルモン(Estradiol=E2)は食べ物と関連がありますので、食事管理(dietary management)は予防、治療の両面で重要です。厳重な食事管理とホルモン療法で管理不能な場合、例外的に手術が行われます。

子宮内膜症に対して行われる手術術式は、卵巣子宮内膜症嚢胞(チョコレート嚢胞)摘出術と子宮腺筋症に対する子宮全摘術です。これらの術式では、卵巣が残っており、女性ホルモン(Estradiol=E2)が術後も分泌されるため、子宮内膜症が完全に治ることはありません。子宮内膜症の根治のための手術療法は、両側付属器切除(両側卵巣摘出)です。これは手術ですが、手術により両側の卵巣を摘出するので、手術によるホルモン療法です。これなら寛解 (または完治) します。しかしながら、月経周期を有する女性の子宮内膜症に対してこの術式を行うことは稀です。

基本的には、内膜症が軽症で、妊娠希望が無い、あるいは妊娠希望時期まで時間的余裕がある場合は、低用量pill単独で十分です。内膜症が重傷で生活に支障がある場合は、直ちにLH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)による偽閉経療法を6回連続(6-8ヶ月)行います。その後は保険適用を駆使して、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)を中心としたホルモン療法を継続し、軽症まで持ち込んだら低用量pillでさらに改善効果を得るか、得られた効果を維持します。妊娠開始時期まで時間的余裕がない場合はcase by caseです。卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)で5-6 cm以上の場合は、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)を4-6回先行投与した後に嚢胞摘出する方法もoptionになります。卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)をそのままにして、妊娠努力開始する場合もあります。その際は、せめて食事管理は徹底すべきです。

閉経すれば、卵巣から分泌される女性ホルモ(Estradiol=E2)は無くなるので(脂肪組織から少量の女性ホルモンEstrone=E1は分泌されますが)、治療は不要とされています。多くの場合、子宮内膜症は改善していき、70%以上は寛解します。子宮内膜症という病気は、「閉経まで如何に管理するか」、というのが治療のポイントです。但し、注意することが一つあります。閉経時点で卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)が残存している場合、閉経後も脂肪組織内で(Aromataseにより)女性ホルモン:Estrone=E1が産生されるため、癌化のriskはゼロにはなりません。閉経時点である程度の大きさ(決まりはありませんが、2-3 cm以上)の卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)がある場合、癌予防の目的で(異常の認められない卵巣も含めて)、両側卵巣摘出を行うことも治療の一つです。癌予防手術を希望されない場合、6か月毎の超音波による厳重管理が大切です。

以下に具体的治療法を提示しますが、どの場合も食事療法は必須です。食事療法は筋腫の場合と同じです。即ち、1) 赤い肉(4足の肉)を食べない。2) 豆乳を飲まない(他のイソフラボンは無制限)、3) アブラナ科の野菜(ケール、ブロッコリー、カリフラワー、ルコラ、大根等)を毎日食べる、です。

2) 卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)の治療
妊娠希望が無い場合
(1) 
長径5cm-10cm:病院やクリニックで「5 cm以上は手術が必要です」という説明を受けることが多いと思いますが、「5 cm」に科学的根拠はありません。そもそも、卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)は、中身が液体ですから、診察時に超音波検査機器の先端(Probe)を嚢胞に強く当てると嚢胞は変形します。例えば、4 cm x 4cm x 4.5 cm (72 cm3)の嚢胞は、超音波器具の先端(probe)で押すと、6 cm x 4 cm x 3 cm (72 cm3))になることもあります。即ち、検査の仕方によって、一方向5 cm以上にすることはできます。勿論 MRIでは、自然体の嚢胞の大きさが測定出来ます。但し。例えMRIで5 cmを超えても、慌てないで下さい。嚢胞で大切な事は、大きさ(size)ではありません。質です。癌化を伴っているかどうかです。私の経験では、癌研大塚病院時代(1987-2003年)から現在のクリニックに於いて、癌化していない卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞) 5-10 cmの80%以上は、基本的に手術をしないでホルモン療法で寛解しております。治療法は、 LH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス、リュープリン)->低用量pillで、嚢胞を縮小せしめ、閉経まで持ち込み、手術しないで寛解です。LH-RH(Gn-RH) agonist開始後は、癌化しません。
(2) 長径5cm未満:基本的に手術は不要。低用量pillを閉経まで持続すれば、卵巣癌を100%予防でき、尚且つピルの種類によりますが寛解可能です。Pill治療開始後効果が弱いと判断された場合は、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)を6回、またはそれ以上行い、その後はpillで閉経まで管理して、手術しないで逃げ切ります。
(3) 長径10cm以上:嚢胞壁に充実性腫瘤がないことを確認し、手術で嚢胞を摘出した後、再発予防に低用量ピルを服用。手術を希望しない場合は、粘り強くLH-RH agonistによる偽閉経療法を継続し、先ず10cm以下に持ち込み、保険医療をうまく駆使して、LH-RH agonist-> pill(または黄体ホルモン)を繰り返しながら、閉経を待って逃げ切ります。
基本的に癌の疑いの無い卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)に対し手術は不要です。また、手術をした場合には、術後にホルモン療法を行わないと必ず再発します。当院に2nd opinionとして受診された子宮内膜症のcasesでは、他院で2回以上腹腔鏡手術を受けられた方、また手術後再発されている方が沢山いらっしゃいます。手術単独では根治出来ません。あくまでも手術は補助療法です。ホルモン療法が治療の主役です。
超音波、MRIで嚢胞壁に充実部分が確認され、卵巣癌と診断された場合は、既に子宮内膜症ではなく、卵巣癌ですから当然手術が必要です。術前に骨盤の造影MRI、MRI-DWIなどにより転移の有無を確認して初回治療の方法を検討します。原発巣(卵巣)に癌が留まっている場合は、手術を先行し術後病理組織診断により、化学療法の詳細(抗癌剤の種類、投与法など)を決定します。術前画像診断で癌が原発巣以外にも広がっている(転移している)ことが明らかになった場合、病理診断目的のための手術 (試験開腹または腹腔鏡手術で病側の卵巣のみの切除)を行います。組織型が判明し、類内膜型腺癌なら、Cisplatin (Carboplatinでは無い)とAdriamycinを含む併用化学療法を4-6回施行後に拡大手術を行います。Guide lineではTaxolとCarboplatin併用療法になっていますが、CisplatinとAdriamycinの方が有効です。明細胞腺癌と診断された場合は、抗癌剤の有効性が低く(Cisplatin, Carboplatinは無効)、case by caseで対応します。
(3) 2回目の手術は、単純子宮全摘では無く、子宮摘出術はダグラス腹膜も一緒に切除(子宮卵巣付近の腹膜を子宮と一緒に広範囲に切除)し、その他化学療法前に確認された病巣が存在していた腹腔内の病巣(化学療法で腫瘍が消失していても)、および抗腹膜リンパ節は、腎静脈上縁まで廓清します。また、ダグラス窩腹膜に病巣が認められ、深部浸潤が疑われる場合は外科医の協力を得て、直腸合併切除が必要になる場合も少なくありません。病巣の広がりによっては、泌尿器科の協力が必要になる場合もあります。このように治癒(根治)のためには、他科の協力を依頼するなどして各施設で可能な限りの拡大手術が必要です。
(3) 卵巣子宮内膜症嚢胞内に充実性部分があっても嚢胞壁とのつながりがない場合は癌ではありません。また充実部分が嚢胞壁とつながっていても、専門医なら造影MRIと経腟超音波で癌か否かの鑑別診断は可能です。充実部分があっても、卵巣癌の可能性が無い場合、手術は不要です。

妊娠希望がある場合:妊娠を考える場合以下の点が重要です。
1) 片側の子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢腫)は卵胞発育、排卵、妊娠に大きく影響しない。
2) 卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)があると、AMHは低下する。
3) 卵巣子宮内膜症嚢胞摘出術を行うと卵巣機能が低下、AMHもさらに低下する。
従って、妊娠希望者では、嚢胞が大きくても出来る限り手術は回避すべきです。また、ある程度の年齢の場合(35歳以上)、早めの体外受精が推奨されます。これらを考慮した上で当院の方針を示します。

妊娠希望がある場合、卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢腫)が小さくても(5 cm以下でも)早急に寛解、完治させる必要があります。何故なら、妊娠努力開始時から、子宮内膜症に対する如何なるホルモン療法も出来ないからです。妊娠が成立しないと月経が起こります。月経が来る度に、チョコレート嚢胞内でも月経が起こり、毎月サイズも大きくなりますが、それ以上に心配なのが、毎月卵巣癌になるかも知れないことです。このようにpressureの下で(癌化の心配をしながら=ビクビクしながら)、妊娠努力すること自体がストレスになります。従って、長径10cmまでの卵巣子宮内膜症の場合(5cm以下であっても)、5年以内に妊娠予定があるなら、LH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス、リュープリン)を直ちに開始、保険適用を駆使しながら、LH-RH(Gn-RH) agonist->低用量pill(または黄体ホルモン剤)->LH-RH(Gn-RH) agonistを継続、同時に徹底した食事療法を併用し、長径 2cm以下を目指します。
内膜症嚢胞の長径が10cm以上(サイズに厳密な決まりはありませんが)の場合、ご本人に将来手術(嚢胞切除術)が必要になる可能性を説明した上で、直ちにLH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス、リュープリン)と厳重な食事療法を開始します。計画通り縮小傾向が認められ10cm以下になり、妊娠開始時期まで時間的余裕があれば、このまま治療を継続します。時間的余裕がないと判断された場合、やむを得ず手術(内膜症嚢胞切除術)を行い、術後は妊娠努力開始時期までLH-RH agonist->低用量pill または黄体Hormone療法を継続します。内膜症嚢胞切除術のデメリット (卵巣機能及びAMHの低下)を回避するために、手術は生涯一度だけにする必要があります。

3) 子宮腺筋症の治療
妊娠希望の有無にかかわらず手術は不要です。次第に増強する月経痛、月経過多による進行性の貧血等で生活に支障がある場合は治療が必要です。妊娠希望がある場合は、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)を直ちに開始します。保険適応を駆使しながら、LH-RH(Gn-RH) agonist->低用量ピル(または黄体ホルモン剤)->LH-RH agonistを継続、徹底した食事療法を併用して寛解を目指します。LH-RH(Gn-RH)agonist治療中は、無月経になるので月経困難症は消失します。この治療法で妊娠努力開始までの時間稼ぎをしますが、早めに妊娠の計画を立てる方が良いです。妊娠希望がない場合、LH-RH agonist->低用量pill(または黄体ホルモン剤)->LH-RH(Gn-RH) agonistを継続し、閉経までも持ち込み、手術なしで寛解させます。
LH-RH(Gn-RH) agonistによる偽閉経療法を継続する際、英国製のゾラデックスと比較して日本製のリュープリン1.88の方が、更年期障害、全身倦怠、肝機能障害等の副作用が出やすい傾向があります(当院での使用経験に基づくdata)。稀ですが、LH-RH(Gn-RH) agonist療法に耐えられない方もいらっしゃいます。その確率は1/50以下です。その場合は、数種類ある低用量pill、または黄体ホルモン剤を服用する(試しのみする)ことにより、体質に合う適切な薬剤を根気強く探します。それでも適切な薬が見つからない場合で、閉経まで何年も時間がある場合は、医師と相談し、手術をすることになります。年齢によりますが、術式は、一般的には子宮全摘か、子宮全摘+両側付属器(卵巣)切除となります。理論的には両側付属器(卵巣)切除のみがベストです。良性疾患ですから、出来れば手術は回避したいです。

4) 上記以外の子宮内膜症の治療
骨盤腹膜内膜症、深部子宮内膜症、他臓器子宮内膜症に対する治療はcase by caseですが、基本は、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射, リュープリン注射)6回->低用量pill(または黄体ホルモン剤)-> LH-RH(Gn-RH) agonistという治療を、保険適用の範囲内で上手く駆使しながら閉経まで持ち込み手術をしないで寛解を目指します。

5) LH-RH(Gn-RH)agonistの保険適用での投与回数に関して
日本の保険適用は連続6本までとなっています。4-6週間隔で注射すると,治療期間は6~8か月となります。卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)、子宮腺筋症、及び巨大子宮筋腫に対して、LH-RH(Gn-RH) agonist療法の治療期間として、連続6回でいったん打ち切りは短すぎます。6回では治りません。保険適用では、6回注射後6か月休薬期間を置くと、再び6回連続治療可能とされています。LH-RH(Gn-RH) agonistの効果が確認されるのは、3回接種後くらいからです。6回でやっと効果が得られているところで休薬すると折角得られた効果が逆戻りします。
休薬期間中は、低用量pill(または黄体ホルモン剤)で次のLH-RH(Gn-RH) agonist療法再開までの時間稼ぎをしますが、LH-RH(Gn-RH) agonist療法を12回連続投与する方がより効果的である事は明白です。6回で一端打ち切りの理由が「骨密度の低下」ということになっているようですが、本当でしょうか?当院では採血でTRACP-5Bを測定し、同時に骨密度を調べていますが、6回注射で優位な骨密度の低下は認められません。本来、LH-RH(Gn-RH) agonistは女性ホルモン受容体(ER)陽性の閉経前乳癌、および前立腺癌の治療薬です。乳癌、前立腺癌では、ゾラデックスの場合は、 3.6 mg/月x 5年(連続60回)、または10.8 mg/3か月 x 5年(連続20回)です。リュープリンの場合は、3.75 mg/月 x 5年(連続60回)、11.25 mg/3か月 x 5年(連続20回)、22.5 mg/6か月 x 5年(連続10回)注射が基本です。婦人科の2倍量で治療期間が10倍ですから、治療期間に投与される量は20倍です。
乳癌、前立腺癌治療に於いて、骨粗鬆という合併症のために、LH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス、リュープリン)療法が中断されることはないようです。婦人科の治療からは考えられない量と投与期間です。乳癌治療のせめて1/4-1/2の保険適用の許可が出る(ゾラデックス 1.8 を2~5年間継続可能)と子宮内膜症は手術無しで完治することが多くなると思います。日本は一度決めた事は、専門家が指摘しても改訂するのに大変なエネルギーと時間がかかります。私の予想では、先ず休薬期間が「6か月」が「3-4か月」になり、そこから5-10年後に、「休薬期間」が外されると思います。LH-RH(Gn-RH) agonist(ゾラデックス、リュープリン)療法が、保険適用で1年以上継続可能になるのは、10年以上後 (2033年以降)になると思います。これらの事を理解されて、LH-RH(Gn-RH) agonistの保険適用を最大限活用して閉経まで持ち込んで、手術を受けないで逃げ切れる(治る)よう、クリニックはサポートします。

LH-RH(Gn-RH)agonistは乳癌の薬ですから、婦人科で使用する場合の最も大きな「副作用」(というより副効果)は、「乳癌の予防」です。最大のメリット(advantage)かも知れません。