ポイント
子宮筋腫を理解するために必要な知識を先に説明します。ポイントを読んで頂ければ、筋腫の事は大体理解出来ると思います。
最も大切な事は、「子宮筋腫」と診断されたら、「子宮肉腫」では無いことを確認すること。「子宮肉腫」は癌より進行が早く、治療が遅れると致命的です。先ずは、「私の腫瘍は子宮筋腫ですか、肉腫ではないですか」と担当医に確認して下さい。明確な返答が無ければ、2nd opinionを受けましょう。
「子宮肉腫」でないことを確認し、間違いなく「子宮筋腫」と診断されたら、次に大切なことは、子宮筋腫の出来ている場所です(図1)。大きさや数は二の次です。「場所」とは、子宮の右とか左とか、前とか後ろとかではありません。子宮の内側にある粘膜を子宮内膜といいます。子宮内膜は赤ちゃんのベッドですから、妊娠すると剥げ落ちません。妊娠しないと毎月剥げ落ちて外に出て来ます。この生理現象を「月経」と言います。この子宮内膜と筋腫との位置関係が大切です。子宮内膜(粘膜)の直下に筋腫が出来て成長していくと、子宮内膜(粘膜)を下から持ち上げて無理矢理子宮内膜(粘膜)を押し剥がすので、想像出来ないくらいの大量出血をもたらします。このような子宮内膜(粘膜)の直下に出来る筋腫を「粘膜下筋腫」と呼びます。筋腫全体の約10%。子宮内膜の直下に筋腫があると、その部分の内膜には赤ちゃん(受精卵)は着床しにくく、不妊症や流産の原因にもなります。子宮筋腫の中で一番困るのが、この「粘膜下筋腫」です。大きさは関係ありません。長径1cmでも大量出血する場合があります。長径5mmでも低用量pillを服用して女性ホルモン(Estradiol=E2)を減らすか、黄体Hormone剤で女性ホルモン(Estradiol=E2)の作用を抑えるホルモン治療が必要です。多くの場合、TCR(Trans Cervical Resection; 経頸管的切除術)という経膣手術による摘出手術が必要になります。粘膜下筋腫が膣の方に成長して(伸びてきて)子宮口から膣に出てくることがあります。赤ちゃんを産むのと似ているので「筋腫分娩」と呼ばれています。これも大量出血の原因となり危険な筋腫で、多くの場合TCRによる摘出手術が必要です。
一方、筋腫が子宮内膜とは反対側(外向き)に成長する筋腫(漿膜下筋腫)は子宮内膜(粘膜)から離れているので、大きくなっても月経に関する症状はありません。筋腫全体の約20%。漿膜下筋腫は長径10cm以上の大きさでも基本的に手術は不要です。但し、例外的に漿膜下筋腫で手術が必要になる場合が2つあります。一つは筋腫が捻転して痛みがある場合(子宮筋腫の茎捻転)です。もう一つは、無症状で婦人科を何年も受診しないため筋腫が巨大(長径15cm以上)になり、下肢深部静脈を圧迫して血栓(深部静脈血栓症)のriskがあると判断された場合のみです。
粘膜下筋腫と漿膜下筋腫の中間的な場所に出来る筋腫が筋層内筋腫です。子宮筋腫のなかで最も多く全筋腫の約70%を占めます。多発しやすいのも特徴です。多くは遺伝性です。筋腫が子宮筋層内に出来て発育します。発育方向は、内側、外側両方です。子宮の外側にむかって(外向性)に発育すれば、漿膜下筋腫と同じ症状と管理方法、子宮の内膜側に向かって(内向性)に発育すれば、粘膜下筋腫と同じような症状で同じ治療になります。外側に発育してくれる方が良いです。以上、筋腫は内側に発育していく程、良くないことを理解して頂ければ有り難いです。
図1 子宮筋腫の場所と症状
治療方法には、ホルモン療法と手術療法がありますが、子宮筋腫は癌ではないので、基本的に手術は不要です。子宮筋腫は女性ホルモン(Estradiol=E2)に依存する(女性ホルモンが筋腫の餌になる)病気ですから、女性ホルモン(Estradiol=E2)を管理するホルモン療法が治療の主体となります。ホルモン療法には、女性ホルモン(Estradiol=E2)を減らすだけの比較的優しい治療(低用量pill)、女性ホルモン(Estradiol=E2)の働きを抑える黄体ホルモン療法、さらには女性ホルモンを限りなくゼロにするLH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス注射、リュープリン注射)またはLH-RH(Gn-RH)antagonist(レルミナ錠)による最も有効な偽閉経療法の3種類があります。女性ホルモン(Estradiol=E2)は食べ物と関連がありますので、食事管理(dietary management)は予防、治療の両面で重要です。厳重な食事管理とホルモン療法を行っても管理不能な場合、例外的に手術が行われます。
子宮全摘は子宮筋腫の根治療法ですが、本当に必要か適応をよく考えて、手術を受けるか決めて下さい。子宮全摘の術中術後の合併症(尿管損傷、膀胱損傷、腸損傷、術後腹腔内癒着、腸閉塞、膣出血、膣壁の肉芽腫など)は決して希ではありません。子宮全摘の手術術式によっては、将来直腸癌を発症した場合、直腸周囲のリンパ節郭清が困難になり、癌手術の根治性が低下する場合もあります。筋腫は癌ではないので、子宮全摘が必要になる場合は本当に少ないです。日本では子宮筋腫に対する子宮全摘を行い過ぎる傾向があります。子宮全摘が必要と説明されたら、2nd opinionを受けることをお勧めします。
子宮筋腫核出術は、治療目的に合わせて有害な筋腫のみを取り除く手術であり、無害な筋腫を含めて、筋腫全てを取り除く事が目的ではありません。多くの場合、術後も小さい(無害な)筋腫は残っています。摘出する筋腫の数が多い程、再発し易いです。術後1-3年で元の状態に戻ることもあります。術後は再発予防の厳重管理が必要です。先ずは食事管理(赤い肉を食べない、豆乳を飲まない、アブラナ科の野菜を摂る等)です。そして、Estradiol(E2)を下げる低用量pillを内服するか、Estradiol(E2)の作用を抑える黄体ホルモン剤を内服します。もっと有効な方法は、術後直ちに、LH-RH(Gn-RH)agonist(ゾラデックス、またはリュープリン)による偽閉経療法を4-6回行い、その後に低用量pillか黄体ホルモン剤を長期内服します。このような術後管理をしても核出された筋腫の数が多い場合は、再発することが少なくありません。多発性筋腫では、核出される筋腫の数が30~40個以上になる場合もあります。このような多数の筋腫核出が患者様にとって意味があるのか疑問になるcaseもあります。筋腫核出術は、人生で一度だけにして下さい。一回の手術でも腹腔内の癒着が起こることがあります。二回以上筋腫核出術を行うと腹腔内の癒着はより広範囲になる可能性があり、将来腸閉塞などを発症するriskが高くなります。また子宮の筋層に2度もメスで操作すると筋層が弱くなり、将来の妊娠で子宮破裂などの重篤な合併症を起こすこともあります。子宮筋腫に対する複数回手術は絶対に避けるべきです。子宮筋腫のみを摘出する「子宮筋腫核出術」はあくまでも補助療法であり、根治療法ではありません。Hormone治療なくして、子宮筋腫の管理は出来ません。例外があります。大きい筋腫が1個だけの場合、子宮筋腫核出後、しばらく再発しない場合も希にあります。手術で両側の卵巣を摘出すれば、女性ホルモン(Estradiol=E2)の分泌が無くなるので、子宮筋腫は再発しません。「両側卵巣摘出術(子宮は残す)」は手術的ホルモン療法で、子宮筋腫に対する根治術のoptionです。子宮全摘と比較し難易度が低く、手術合併症も少なく、患者様の負担も少ない術式です。理論的には安全で極めて有効ですが、実際に行われる事は稀です。以上、子宮筋腫に対する治療の主体はホルモン療法であることを理解して頂きたいです。さて、以上の説明で筋腫の基礎知識は理解できたと思います。これから筋腫の具体的な説明をします。
子宮は単純な臓器です。内側が粘膜(内側の粘膜なので内膜と呼ぶ)。外側が内膜(粘膜)を包み込むように守る筋肉(子宮筋層)です。子宮は内側の子宮内膜(粘膜)と外側の子宮筋層の二つの組織から出来ています。表1に示した様に、内膜(粘膜)に出来るものは人間(妊娠)か腫瘍(ポリープ=良性、内膜癌=悪性)、外側の子宮筋層に出来る物は、筋腫(良性)か、肉腫(悪性)です。詳細な全国調査は行われていませんが、筋腫の発生率は、20代後半女性の10%以上(10人に一人以上)、30代女性では30%以上(3人に一人以上)と推定されており、非常にありふれた良性腫瘍です。医療機器(超音波やMRI)の進歩により、発見率が高くなっていますが、それだけで無く、食生活の欧米化、出産回数の低下などlife styleの変化が筋腫増加の一因と考えられます。筋腫自体が悪性に変化することはありません。
表1:子宮体部にできるもの
最も大切な事は、「子宮筋腫」と診断されたら、「子宮肉腫」では無いことを確認すること。「子宮肉腫」は癌より進行が早く、治療が遅れると致命的です。誤診や見逃しも希ではありません。先ずは、「私の腫瘍は子宮筋腫ですか、肉腫ではないですね」と担当医に確認すること。肉腫か子宮筋腫かの確定診断には、病理組織検査が必要。手術で子宮を全摘(あるいは腫瘍の核出)をしないと確定診断は出来ません。但し、経験豊富な婦人科医及び放射線診断医は、超音波検査やMRI検査で診断可能です(100%ではありませんが)。表2のように、子宮肉腫の多くは40代から発症し、腫瘍の数は1個(沢山あれば筋腫)、血液中のLDH(LD)が異常高値、超音波やMRIで変性や腫瘍内出血の所見がある等、医師が「肉腫」を意識して検査すると95%以上は診断可能です。但し、1-5%程度は確定できない場合もあります。その場合は短期間に再検して、腫瘍が増大しないか、変性所見が更に変化しないか等、注意深く観察すれば診断は可能です。それでも肉腫の可能性が否定出来ない場合は、子宮全摘を行い、病理診断で確定します。定期的診察(通院)の過程で「肉腫」というkey wordが一度も出てこない 場合は2nd opinionを受けた方が良いと思います。
表2 子宮筋腫と子宮肉腫
1) 原因:筋腫1個のみの場合は突然変異です。複数(2個以上)の場合は遺伝性です。母親に多発性筋腫があった場合、娘に多発性筋腫が発生する可能性が高いです。肝臓から分泌されるinsulin-like growth factor(IGF-1)は筋肉に作用し、筋腫の発生に関わっていることが分かってきましたが、現時点でこのIGF-1を管理する方法がないので、対策は研究段階です。卵巣から分泌される女性ホルモンには、月経周期の前半に分泌される卵胞ホルモン(Estradiol=E2:赤ちゃんのベッドである子宮内膜を作る女性的なHormone)と、月経周期後半に出てくる黄体ホルモン(Progesterone:E2が作った子宮内膜を柔らかくして受精卵が着床しやすくする男性的なホルモン)があります。Estradiol(E2)は筋腫や子宮内膜症などを進行(悪化)させます。一方、Progesterone(黄体ホルモン)は、子宮筋腫(子宮内膜症も)に対するEstradiol(E2)の成長促進作用(悪影響)を制限します。即ち、子宮筋腫(子宮内膜症も)は月経周期の前半に女性ホルモン(Estradiol:E2)の影響を受けてグッと大きくなり、月経周期の後半にProgesterone(黄体ホルモン)の影響で成長が止まるか少しだけ縮小します。このcycleを繰り返しながら、筋腫は(子宮内膜症も)確実に大きくなって行きます。筋肉細胞のEstradiol(E2)に対する感受性が強いか、Estradiol(E2)の量がProgesterone(黄体ホルモン)に比べ過剰か、が原因の一つですが、子宮の筋肉細胞のEstradiol(E2)に対する感受性を自分で下げることは出来ません。しかしながら、自身の体内の血液中のEstradiol(E2)を管理することは不可能ではありません。危険因子の排除に努めて下さい。
2) 危険因子:初潮が早い、肥満、Vitamin D欠乏、赤い肉(4足の肉)を食べ過ぎ、豆乳取り過ぎ、緑の野菜(特にアブラナ科)欠乏、果物(柑橘類)の欠乏、飲酒のなかではBeer(Non-alcohol Beerも)の飲み過ぎ等が危険因子です。Beerを作る際の主成分であるホップと大麦に植物Estrogenが含まれているからです。またBeerはprolactinの分泌を増やしてHormone balanceを不整にする可能性もあります。アルコールの中でBeerだけは控えめにして下さい。これらの危険因子を排除して下さい。筋腫と診断されたら、小さくても、いずれ必ず大きくなります。将来お金と時間がかかる治療を受けたくなかったら、本気で食事管理(dietary management)をして下さい。
3) 子宮筋腫(子宮内膜症)に対する食事管理(dietary management):子宮筋腫(子宮内膜症も)はどのタイプであっても、月経周期がある(女性ホルモン:Estradiol=E2が分泌されている)期間は、毎月成長(進行)して行きます。大きくさせないためには、ホルモン療法以前に、自分で出来る食生活の管理が必要です。食事管理の基本は以下の通りです。赤い肉(4足の肉,加工品)を食べない、タンパク質摂取は魚と二本足の肉(鶏肉,鴨肉など)をmainにする。豆乳は飲まない(豆乳以外のIsoflavoneは普通に摂取しても問題なし)、Alcohol好きな人は、Beerだけは減らす。赤ワインは抗酸化物質の一種flavonoids=polyphenol(抗estrogen作用あり)とresveratrol (レスベラトロール:潜在的癌予防効果あり)を含んでおり制限不要で、むしろ適量飲んだ方が良い。Vitamin Dを含む食事(魚とキノコ類等)を積極的に摂取する。野菜、特にアブラナ科の野菜に含まれるflavonoids(フラボノイド)はEstrogen(卵胞Hormone)合成をブロックし、筋腫の成長を抑えます。中でもケール、ブロッコリ、カリフラワー(インドール3カルビノール:Indole-3-carbinolを含む)は筋腫の抑制作用が強いと科学的に証明されています。
糖尿病、高脂血症、痛風などの代謝病だけでなく、癌を含め多くの疾患が食事療法で予防、改善できます。本来、食事療法は、病気の管理(治療)の一部として欠かせないものであり、米国では説明にかなりの時間をかける病院(医院)もあります。子宮筋腫のみならず、女性ホルモン依存性疾患(子宮内膜症、子宮内膜癌=子宮体癌、子宮内膜ポリープ、乳癌等)では、自分で出来る治療として食事管理が重要です。
子宮筋腫の症状は発生部位(出来ている場所)により決まります。部位別症状の図1を参考にして頂ければ有り難いです。子宮筋腫の3要素は、大きさ、数、場所(表3)ですが、筋腫のサイズ、こぶの数よりも、出来ている場所が大切です。場所とは、上とか下とか、前とか後ろとかでは無く、子宮内膜との位置関係です。
表3 子宮筋腫の3要素
図1 子宮筋腫の場所と症状