当院は患者様およびご家族の命を守る事を使命としています。専門は婦人科腫瘍です。
基本的な方針は、「癌を予防して子宮や卵巣を守る」ことです。
最近は、「前癌状態」で診断が可能になってきました。
「前癌」 → 「癌」という関係を婦人科癌で見ると、子宮頸部では「異形成」→「頸癌」、子宮内膜 (体部)では、「子宮内膜増殖症」→「子宮内膜癌(日本では体癌といわれています)」、卵巣では「子宮内膜症 (チョコレート嚢胞)」→ 卵巣癌となります。他臓器では、「萎縮性胃炎」→「胃癌」、「大腸ポリープ」→「大腸癌」、膵嚢胞(IPMN) → 膵癌、「肺スリガラス陰影 (GGN)」→「肺腺癌」等が確認されています。
前がん状態で発見したら、癌の予防が可能です。癌の早期発見はもはや一昔前の医療で、今は前癌状態を見つけて癌を予防する時代です。大いに医学の進歩を利用して頂きたいと思います。
前癌状態で見つかった場合の治療(管理) は、できる限り小さい治療で(安易に手術をしないで)病気を治すことを基本方針としています。
当院が専門としている「子宮頚部異形成」に関しては、たとえ高度であっても直ぐに円錐切除(後遺症が問題)をしないで、「治療的組織診(検査目的で行う組織診を治療的に行う)」で治して、早産や子宮頚管狭窄症(または子宮口閉鎖)を回避するよう務めています。
「卵巣子宮内膜症=チョコレート嚢腫」は5cm以上で手術するという方針がありますが、5cmというsizeに根拠はありません。また、手術のみでは完治しません。5cm以上であっても(約10cmまでは) ホルモン療法と厳重な食事管理で手術をしないで治す事が可能です。子宮内膜癌(子宮体癌)の前癌状態である「子宮内膜増殖症」は単純型なら低用量ピル、複雑型は黄体ホルモン療法で治す。ホルモン療法は年齢で適応が規定されていますが、ホルモン状態には個人差があります。
年齢にとらわれず、女性ホルモン(FSH/E2)を測定(採血)して、適応があれば(FSHが低値でEstradiol=E2が分泌されていれば) 粘り強くホルモン療法と厳重な食事管理を行うと80%は寛解可能です(治ります)。そして、その後に妊娠可能です。どうしても手術が必要な場合は、できる限り小さい手術で治す。命を守る前提で、臓器を温存することに徹しています。
以上の中でも、特に「子宮頚部異形成」の管理を専門にしているクリニックです。
一方、前癌ではなく、進行癌が見つかった場合は、最善の治療ができるよう治療計画を立てます。
最善の治療で最も重要なことは、正確な診断です。癌の組織型、分化度、進行期(TNM分類)、そして転移の有無です。例えば子宮頸癌であっても組織型が扁平上皮癌か腺癌か、また分化度で癌の進行様式も異なり、根治のための治療法も異なってきます。これらが揃っていないと最適な治療は出来ません。
当院では超音波、細胞診、組織診、病理診断のreview, HPV-DNA診断、血液検査に加え、提携している画像診断センターでの迅速正確な診断により短時間で確定診断し、進行癌でも根治のための治療方針を提案します。確定診断の次は治療ですが、婦人科癌治療の鍵は、手術、術後の病理診断(およびreview)、術前後の化学療法(抗癌剤治療)です。放射線療法は適応の範囲が限られます。
全てが大切ですが、中でも、手術を誰が行うか、抗癌剤治療では、使用する薬剤の選択と投与法が重要です。特に術者は大切で、「何処の病院で」ではなく、「誰が手術をするか」で運命が決まると言っても過言ではありません。やり直しは出来ません。余程の緊急性が無い限り「なるべく早く手術をする」のではなく、「1ヶ月手術時期が遅くなっても名医を見つける」ことが大事です。
実はこの名医を見つけることが最も困難な作業の一つです。当院では、医師のつながりを最大限に利用して名医探し(病院では無い)のお手伝いをします。そして納得されたら名医を直接紹介します。抗癌剤治療に関しては、日本の現在のガイドラインにとらわれず、根治のためのベストな薬剤と投与法を受けて頂けるよう最大限のサポートを致します。
良性腫瘍に関しては、正確な診断と、なるべく手術をしないで治すことを信条としています。特に正確な診断のためには、人(当院と連携している優秀な医師)と最高の検査機器を最大限利用して納得のいくまで徹底した検査を行います。
婦人科では、癌に見えて癌では無い疾患があります。
子宮筋腫の一種であるAPAM (子宮ポリープ状異形線筋腫)、子宮頚管炎の一種であるLEGH(分葉状頚管腺過形成)です。APAMは私が癌研大塚病院時代の1997年6月に診断、LEGHは2006年5月に診断しました。当時日本ではあまり知られていない疾患でした。
癌に見えて癌では無い疾患を病理医が「APAM->子宮内膜癌」や「LEGH->子宮頚部腺癌」と診断(誤診)して手術した場合、婦人科医(主治医)も患者側も、「癌」と信じていますから、お互いに誤診に気付くことはありません。患者様も、「癌」ではないのに、再発を心配しながら、定期的に時間とお金をかけて5年間(無駄な)通院をすることになります。当然再発はしません。その後も、「癌が再発しなくてよかった」と思いながら、人生を送ることになります。
術後何年か後に、病理に精通している婦人科医か病理医が研究の一環として病理標本(プレパラート)を顕微鏡で観察して「実は癌では無かった=誤診」に気付いた場合は問題です。日本の病院では、術後に「癌では無かった」ことが判明した場合、学会で発表することはあっても、患者側に伝えることはないと思います。手術の前に、病理に精通し、海外の婦人科腫瘍学の知識がある医師が居て、尚且つ上下関係なく議論できる検討会を行えば誤診を回避出来る可能性はあります。やはり手術前の病理診断は大切です。
一方、癌に見えなくて実は癌が潜んでいる疾患もあります。
卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢腫)、卵巣奇形腫(皮様嚢腫)、子宮筋腫です。ごく稀ですが、子宮頚管ポリープでもあり得ます。嚢腫の一部が癌化しているにもかかわらず見落としされるcaseが未だにあります。この場合の誤診は、後に形となって現れるので分かりやすいです。場合によっては致命的です。
治療は全て、診断に基づいて行われます。治療前診断が間違っていると、その後の治療も全て間違った方向に行ってしまいます。病気の治療において、治療前診断がいかに大事か理解して頂きたいです。
当院では、例えば、ありふれた「子宮筋腫」の診断においても、徹底的に「肉腫」を否定する。「子宮頚部腺異形成」の経過観察においても、「子宮頚部腺癌および腺異形成」は観察しにくい部位に存在するので、定期的に確認するようにしております。これは医師としての心得ですが、正確な診断をするためには、欧米医学に常に触れておくこと、常識や先入観を持たないこと、確率的な診断をしないこと、豊富な臨床経験をもつこと、丁寧な診察、等が必要です。
さて、子宮筋腫(APAM含む)、LEGHは良性疾患ですから、診断が正しければ、基本的に手術は不要です。
子宮筋腫 (APAM含む)、卵巣子宮内膜症は女性ホルモン(Estradiol=E2)依存性の疾患です。閉経すれば殆どの場合解決(寛解)します。閉経まで薬(ホルモン剤)と食事療法で女性ホルモンを厳重に管理すれば、多くの場合手術は不要です。手術はあくまでも補助療法です。
悪性腫瘍は生命に関わるので手術は必要不可欠ですが、良性腫瘍では不要な手術は回避すべきです。
日本は良性疾患に対して手術を行い過ぎる傾向があります。
大病院で手術を受けた後に当院を受診された2nd opinionのcaseの内容から、比較的簡単な手術とされる子宮全摘や円錐切除でさえ、合併症は少なくありません。子宮筋腫に対する腹腔鏡手術で腸管損傷、尿路損傷など稀ではありません。術中に合併症に気付かないと、術後重傷になる場合もあります。
高度異形成の治療目的で腹腔鏡手術による子宮全摘を行い、結果的に病変部を残した例もありました。技術的に未熟と言わざるを得ません。
最近では(2022年7月)子宮内膜癌I期の診断で、大学病院で手術支援ロボット「ダビンチ」手術を受けた54歳の女性が、退院後3日目に自宅で大量出血して死亡するという前代未聞の医療事故がありました。病院の解剖で患部近くの左外腸骨動脈に約2mmの穴が開いていたことが判明しました。ロボット支援手術ではお腹の中(術野)を拡大して見えるので、肉眼で行う開腹手術よりも細かい操作が可能ですから、手技に慣れてくると、開腹手術より手術の根治性も高まり、ミスも少なくなるはずです。それなのに、初歩的なミスが起こったということは、ロボット支援手術に慣れていなかった、技術を十分に修得していなかった可能性があります。今回考えられることは、電気メスが血管に当たったのか、先のとがったメスが血管を傷つけたのか等です。いずれにしても、各操作終了時に止血の確認が行われなかった可能性がありますが、詳細は明らかにされていません。ロボット手術ですから、術中の操作は全て録画されているはずです。残されたご家族の気持ちを考えると、映像だけで無く音声も含めて、包み隠さず(手を加えず)手術の全記録を提出して原因を明らかにする必要があるのではないかと思います。
動脈の損傷ですから、術後から出血していたはずです。ただし、傷つけた血管が腹腔内であれば、広い空間に大出血するので、貧血が進行し、お腹も膨隆し直ぐに分かると思います。外腸骨動脈は、後腹膜腔の狭い空間にあるので、動脈性出血でも腹膜に圧迫され血腫が出来て、血腫の圧迫止血効果により入院中大出血に至らず、退院されたと推定されます。術後退院までに血液検査で貧血はなかったのか気になります。退院許可を出すために、婦人科の責任者が退院診察をするはずです。その際に、超音波検査を行えば、後腹膜腔の血腫は確認可能です。触診でも触れる可能性もあります。また、術後は膣断端を診察する必要がありますが、少量でも出血が無かったのか、あるいは、そもそも退院診察していなかったのか、カルテ記録など全てを正直に明らかにしないと、亡くなられたご本人も浮かばれませんし、ご家族もご納得できないのではないでしょうか。
子宮内膜癌に対する子宮全摘術は婦人科の手術の中では基本的な手技です。Stage Iの子宮内膜癌は100%完治します。ご本人だけでなく、ご家族も本当に気の毒です。ロボット手術を受けずに、今まで通り普通に開腹手術を行っていれば何の問題も起こらなかったはずです。子宮を安全に摘出することが手術の目的であり、子宮にたどり着くまでのapproach(手法)が問題ではありません。開腹術か、腹腔鏡か、ロボット支援かは、手術の根治性ではなく、Approachです。癌の手術はApproachよりも根治性が大切です。良性疾患でも同じです。最近、根治性よりも、Approachに重点が置かれていることが心配です。そのような中で起こった医療事故です。本件に関しては、厚生労働省が介入して、導入されて間もない「ロボット支援手術」の安全性を今一度再確認する必要性があると思います。日本では人の命が軽視されすぎではないかと思います。開腹手術の技術さえも未熟な産婦人科医が多い日本で、新しいもの(医療機器)に手を出して、患者様が犠牲になっている構図です。今一度、治療を受ける患者サイドに立って、手術方法(術式とApproach)を見直す必要があります。今回のあり得ない死亡事故は、新しい機器を導入しなければならない教育機関ならではの医療事故だと思います。
婦人科以外でもロボット手術の際の操作ミスによる医療(死亡)事故は報告されています。死亡に至らない医療事故は報道されません。手術関連の事故が増加している(減少しない)一因は、大学病院や大規模の総合病院が教育の場(研修機関)になったこと、研修制度上の問題(手術の質より件数重視)、さらに手術の術式が、人の手による手術->内視鏡手術(腹腔鏡、胸腔鏡)->ロボット支援内視鏡手術へと急速に移行していることに医師の技術がついて行けてないこと等、です。手術は根治性と合併症がないことが一番大切です。Approach (開腹か腹腔鏡かロボットか)ではありません。施設毎に所属する医師の技量にあったapproachを選択し(無理にロボット手術をしないで)安全に根治性の高い手術をすべきです。新たなApproachは、施設を限定して行い、それが本当に良い方法であれば、時間をかけて全国に拡大していけば良いと思います。
長くなりましたが、このように「子宮全摘」のように比較的難易度の低い(難しくない)手術でさえ、重大な合併症が起こり得ます。現状の日本(特に婦人科)では、良性腫瘍と正確に診断されたら、余程の必要性が無い限り手術は回避しましょう。ホルモン療法、薬物療法、及び厳重な食事管理など、手術以外の方法で治すことを優先すべきです。良性腫瘍で手術が必要と判断されたら、緊急性が無い限り、時間をかけて名医探しをして、納得してから手術を受けて下さい。病院ではありません。医師です。
また、当院では来院された患者様の家族の病気の相談にも応じています。同じ病院内でも、どの医師が担当するかで予後(治療成績)が異なります。当院では、ご本人が希望されない限り、病院宛の紹介状は書きません。当院を受診されたら、婦人科は勿論、婦人科以外のことも含めて健康に関しては「安心感が得られる」ように診療を行っています。