当院が最も力を入れている疾患です。
後で詳細を記していますが、読むのが大変という人のために要点を先にまとめます。
[I] 子宮頚部異形成の要点(まとめ)
(1) 当院のHPV型別検査(HPV typing)(表3)
日本で検査可能な全ての型を調べます。
6,11,16,18,26,31,33,35,39,42,44,45,51,52,53,54,55,56,58,59,61,62,66,6870,71,73,82,84,90,CP6108の31種類です。自費検査で費用は19500円。
保険適用のHPV検査(High risk型13種類のみを調べる)をご希望される方は、当院で出来る検査項目のHPVの検査の項を参照して頂きたいです。保険適用の規約上、初診当日には行うことができません。初診時の「組織診の結果が軽度異形成、または中等度異形成」と判明した後日(別日)に検査可能となります(厚生労働省)。また、「組織診の結果が高度異形成」の場合、保険適用されません。新生児の喉に感染すると生命にかかわる「呼吸器乳頭腫症」(netで検索お願いします)の原因HPV 6,11が検査対象に入っていないため、妊娠希望のある方にはあまり推奨できません。
(2) コルポスコピーで観察しながらの組織診(表5):軽度異形成 (CIN I)、中等度異形成(CIN II)、高度異形成 (CIN III)、あるいは頸癌(扁平上皮癌、腺癌)、いずれかの正確な病理診断が決定されます。
(3) 細胞診(表5):NILM(異常なし)の場合信頼度は低い。NILM以外の結果が重要。扁平上皮系ではASC-H, HSIL、腺上皮系ではAGC, AIS, adenocarcinomaが検出された場合、特に重要な情報となります。細胞診は異常と診断された場合、非常に有用です。
(4) 超音波:異形成は超音波では見えません。診断が困難な子宮頚部腺癌の見落としを防ぐために行います。また、子宮筋腫、卵巣腫瘍、嚢腫(奇形腫は見落としが多い)の検出のためにも必要です。
1) 治療的組織診:一番小さい治療方法。組織診は本来診断目的の検査ですが、コルポスコープで確認できる異形成の病巣を出血の許す範囲で最大限切除する(コルポスコープで見える異形成を可能な限り全部切り取る)と、異形成も除去され、さらに原因HPVも駆除(除菌)可能です。
2) 子宮膣部から頸部の蒸散術:子宮膣部から頸部の上皮を3mm前後の深さで焼き切る。レーザーは光線なので、子宮膣部表面を焼き切るのに適していますが、その奥の頸部(頚管)を焼き切る点に於いて不十分です。そのため、治療成績がやや劣ります(レーザーによる子宮膣部蒸散術)。高周波電気メスの方が膣部表面だけでなく頸部(頚管)まで広範囲に焼灼出来て、より効果的です(高周波電気メスによる子宮膣部~頸部拡大蒸散術)。当院では、後者を行っています。また、その際に、蒸散する範囲内の病巣の診断のために、蒸散前に複数の組織診(大きめに採取)を行います。蒸散だけでは、診断がつかず、不十分です。
3) 円錐切除:「簡単な手術ですよ」と説明されることが多いようですが、簡単ではありません。婦人科では、ある意味、最も難しい手術です。第一に、何処まで(何mm)切れば治るのか世界中のどの医師も分かりません。あくまでも経験に基づく手術です。開腹や腹腔鏡下で、子宮や卵巣を摘出する手術は「摘出するだけ」ですから、医師にとって「やりやすい手術」です。円錐切除は、「残す手術」です。切りすぎると「早産になる」。一方、残しすぎると「異形成もHPVも取り切れない」。患者様からの要求は、「ちゃんと取り切って下さい。でも、取り過ぎないで下さい」です。何処まで切れば、異形成もHPVも取れるのか分からない状態で手術は行われます。婦人科で最も難しい手術です。
当院では、異形成の3要素と年齢を考慮して、「縮小円錐切除(頸部5 mm切除)+拡大蒸散術」と「標準円錐切除 (頸部7-10m切除) +拡大蒸散術」の2通りの方法で行っております。妊娠希望のある方には、早産のriskを回避するために「縮小円錐切除(頸部5 mm切除)+拡大蒸散術」を行うようにしております。頸部5mm切除では、異形成病巣やHPVが取り切れない場合があるので、5mm切除後に子宮膣部から頚管奥約3cmまで、拡大蒸散術を同時に行います。子宮膣部の高度異形成病巣が広い場合や40歳以上の方では、異形成病巣が頸管側に進展することが多いので、頚管を7-10mm切除する場合もあります「標準円錐切除 (頸部7-10m切除) +拡大蒸散術」。これまでの経験から頚管10mm以上切除すると、早産riskが高くなります。
1) 術中術後出血:術中や術後3日以内の出血は医師の手術操作及び管理が原因です。医師が適切な手術を行っても術後出血が起こる場合があります。術後2週目からの約10日間です。この頃かさぶたが剥がれて、動脈性に大量出血することがあります。時には治療 (縫合やカテーテルによる血管の塞栓術)が必要な程、大出血する場合があるので、手術当日からの24-30日間は生活上注意 (脈拍が上がるような行為は避ける:入浴、運動、飲酒、辛いものを食べない等)が必要です。但し、子宮出血は術後約1ヶ月で必ず解決しますから、合併症としては目立ちますが、必ず解決するという点で後遺症的なものもなく、術後管理さえきちんとすれば大きな問題ではありません。
2) 子宮頚管狭窄または閉鎖(子宮口の狭窄または閉鎖)(表9):これは本当にやっかいです。術後後遺症として、一生涯つきまといます。私が安易に円錐切除をしない最大の理由がこの合併症です。円錐切除を受けて半年以内に閉鎖する場合(原因)は、本人の体質、基礎疾患、円錐切除のタイミング、医師の管理等に問題があると考えられます。
術後1年また数年大丈夫でも、更年期から閉経期以降になると、高率に狭窄や閉鎖が起こります。閉経前に子宮口が閉鎖すると大変です。排出すべき月経血が子宮内に溜まり、卵管から腹腔内に逆流して腹膜炎を引き起こす場合もあります(入院治療が必要な場合あり)。子宮口の狭窄または閉鎖が閉経後に生じた場合は、日常生活に大きな問題はありませんが、子宮内膜癌 (子宮体癌)の検査(細胞診)が出来なくなります。私はこの問題に20年以上取り組んで来ました。狭窄(閉鎖)の原因は何か、また手術の工夫、術後の管理方法など、後述します。日本全体では、未だにこの問題を重要視していないように感じます。
手術切除範囲も不明確で、合併症が多く、特に術後長期(生涯)に及ぶ合併症 (後遺症)=「子宮頚管狭窄または閉鎖」を熟知していたら、「簡単な手術」とは言えず、安易に行うべき手術ではありません。進行癌では無いので急いで手術を受ける必要はありません。手術を受ける前に、合併症、後遺症(早産、頚管狭窄、閉鎖)のことをよく理解しないと、後で困ることになります。円錐切除に関わった医師は一生涯、責任を持って患者様を管理する必要があります。出来れば回避したい手術です。治療的組織診や、せいぜい蒸散術(拡大)で逃げ切りたいです。これらの治療法で逃げ切れなく、他に治療法がない場合にやむを得ず「円錐切除」を行うという考え方です。また、その場合も、「子宮頚管狭窄または閉鎖」が起こりにくい工夫した手術をすべきです。
これから、異形成、HPVに関して詳細を説明致します。
異形成の原因のHPVを含めてVirus, HPV vaccineに関しては、用語説明欄を参考にして頂ければ有り難いです。
さて、ここから異形成の詳細な説明を致します。
[I] 異形成の概要:異形成とは何か説明します。(異形成 図1, 表1)
1) 異形成とは:子宮頚部から膣にHPV (Human Papilloma Virus)が感染して、正常細胞が変化した状態です。もっと詳しく説明すると、子宮膣部から頚部にある扁平上皮と腺上皮の境界部分(S-C junction) の上皮(表面)から2-3 mmの深さのところにある基底膜の細胞にHPVが感染して、HPVのDNAが正常細胞の核内に入り、その結果、基底膜から発生する上皮細胞が、正常とは異なる形に変化した状態です。
2) 異形成 (CIN)自体は心配不要:異形成の状態では、症状もなく、日々の生活、人生の全てに於いて、何の影響もありません。勿論、妊娠、出産にも全く影響ありません。たとえ高度異形成 (CIN III)であっても、癌細胞のように、どこかに転移して、生命を奪うような事は絶対にありません。即ち、異形成で困ることは何もありません、そういう意味では、異形成は病気としてとらえる必要はありません。高度異形成 (CIN III)は癌ではありません。
3) 異形成で困る事:それは唯一つ、癌化する可能性がある事です。癌化したら、異形細胞ではなく癌細胞ですから、生命にかかわってくるので、絶対に治療が必要です。繰り返しますが、異形成自体は、本来治療不要です。癌化する可能性があるか否かが、唯一の問題です。異形成と似ているものは、黒子 (ほくろ)です。ほくろは、病気としてとらえる必要はありません。一生消えることもありません (異形成も厳密な意味では、長期間元の正常細胞に戻ることはありません。寛解後も組織診を行うとkoilocytosis=「HPV感染の跡あり」という所見は長期間残ります)。黒子で唯一の問題は、癌化するか否かです。癌化したらメラノーマと言います。異形成とよく似ています(ただし、黒子は異形成よりも癌化の確率が低いです)。
以上、異形成は子宮頚部の扁平上皮(手前側)と腺上皮(奥の方)の境の基底膜の細胞にHPVが感染した状態です。異形成の状態になっていても、生活には支障ありません。心配することはただ一つ、「癌化するか否か」に尽きます。癌化するかは、HPVの型で決まります。最も大切な事は、どのタイプ(型)のHPVに感染しているかを正確に(詳しく) 調べる事です。
[II] 異形成の3要素(表2)
1) HPVの型 (最も重要)
2) 異形成の質 (軽度、中等度、高度)
3) 異形成の量 (範囲)
異形成の管理で最も大切な事は、「癌化するか否か」に尽きます。癌化するかは、HPVの型で決まるので、3要素の中で「HPVの型」が最も大切です。その次に大切な事は、コルポスコープで見える異形成の範囲(表面的な拡がり)です。異形成は立体的に拡がっていきます。範囲が狭い程深さは浅く、範囲が広い程深いです。例え、高度異形成でも範囲が狭ければ、治療的組織診 (コルポスコピーで確認された病巣を出来るだけ多く切除する)で高度異形成病巣も摘出され、原因HPVも駆除(除菌)可能で、円錐切除しないで治すことが可能です。そして三番目が、異形成の質的診断です。多くの病院では、これのみを指標として管理していますが、それでは不十分です。厳重な管理のためにはHPVの型を先ず正確に判定することが最も大切です。
4) 備考:半分余談になりますが、 異形成の質 (軽度、中等度、高度)について、「質的診断」としていますが、実は軽度―中等度-高度の違いの説明は、基底膜の上 (外側)にある上皮の内、異形成が下1/3を占める場合は軽度異形成 (CIN I)、2/3を占める場合は中等度異形成(CIN II)、全部(3/3)を占める場合は高度異形成 (CIN III)とされています。実際殆どの医師がこのように説明しています。この説明が本当だとすると、軽度、中等度 、高度は「質の違い」ではなく、「量 (深さ、厚さ) の違い」ということになります。軽度も高度も同じ「異形細胞」であり、量の違いという説明になっています。高度がより癌に近い性質(遺伝情報)を持っているとは限らないとも考えられます。異形成は癌のような増殖性もなく、また転移することはありません。組織診という小さな手術で、上皮内の異形成の量を減らして、高度を軽度にすることは不可能ではありません。また、異形成の病巣内にHPVは存在しているので、繰り返し組織診で異形成の量も減らして、HPVの駆除(除菌)も100%ではありませんが、可能です。従って、高度異形成の診断のみで、早産のriskが高まり、また生涯に及ぶ子宮頚管狭窄(あるいは閉鎖)のriskを伴う円錐切除を100%行うという日本のガイドラインは必ずしも正しくないと考えられます。当院では、HPVの型、異形成の範囲、および繰り返し治療的組織診の経過に基づいて、手術適応を慎重に判断しています。その結果、高度異形成 (CIN III)、の約半数は円錐切除することなく完解させています(治っています)。日本のガイドラインは、将来HPVの型を考慮して円錐切除の適応が決まるように変更されると思います。
最近、high risk HPV感染の異形成で、中等度異形成(CIN II)という中途半端な状態が続いた場合、p16, ki-67タンパクの免疫染色という特殊な検査を行い、癌化しやすい異形成 (腫瘍性異形成)か、癌化しにくい異形成(反応性異形成)かを鑑別診断することが可能になりました。腫瘍性なら拡大蒸散術や円錐切除を行い、反応性なら行わないで良いという判断が可能です。まだ、研究段階です。
[III] 「異形成が治る」とはどういうことか (異形成完解の条件) (表6)
「治療的組織診」で異形成を治す!! 当院では、本来診断を目的とする組織診を治療的に行う事で、円錐切除などの手術をしないで治すことを目標にしています。異形成が治るとはどういう事か。それは異形成(および子宮頚癌)の原因であるHPVを駆除 (除菌)すること。HPVが陰性化する事です。通院中に細胞診が異常なし (NILM)になっても、HPV (特にhigh risk HPV)が残っていたら治ったことにはなりません。当院の13年以上に及ぶfollow up data (同じ患者様の追跡調査) の解析から, 一度検査で検出されたHPVが自然消滅することは、ほぼありません。子宮頚部の上皮 (表面) にHPVがついていて (ごみがついているように)、洗えば流れ出るようなものと考える人がいますが、間違いです。HPVは子宮膣部から頚部にある扁平上皮と腺上皮の境界部分 (S-C junction) の上皮 (表面)から2-3 mmの深さのところにある基底膜の細胞に感染し、時間をかけてゆっくりと感染拡大します。その部分を治療的組織診 (またはレーザー/高周波電気メスによる蒸散、円錐切除等)で切除 (除去)すると、HPVを駆除(=除菌)することが可能です 。但し、HPV駆除 (除菌)率は100%ではありません。例え子宮全摘をしてもHPVを100% 駆除 (除菌)ことは不可能です。現時点でHPVを100%駆除 (除菌)する方法はありません。因みに当院での治療的組織診でのHPV駆除 (除菌)率は、2-3ケ月毎に通院した場合、1年で約60-70%、2年で約70-80%前後です。最終的には100名の内10名前後は、いかなる治療(子宮全摘含む)を行っても、駆除 (除菌)出来ません。子宮全摘してもHPVが残存しているということは、膣まで感染拡大しているということです。
いかにして早くHigh risk HPVを駆除 (除菌)するかが、異形成の管理(治療)で最も大切な事です。当院では、先ずは治療的組織診で異形成を治すことを第一目標にしております。何故なら、組織診は、一度に沢山採っても、また2-3ケ月毎に繰り返し採っても、子宮は短くなりません。一回の組織診でどんなに沢山採取しても、10日前後で元の子宮の長さに戻り、形も変形することはありません。手術をした場合、治療した部分は元通りにはなりません。レーザーや高周波電気メスによる蒸散術 (子宮膣部から頚部を焼き切る)では、子宮頚部 (元々は3-3.5cmあります)が、約3-5 mm短くなります。またより治療範囲の大きい円錐切除では、術者によりますが、5-15mm短くなります。従って、治療的組織診でHPVを駆除 (除菌)出来ることが患者様にとってベストです。
ここでお断りすることがあります。胃がんの原因のピロリ菌は「細菌(生き物)」ですから、「駆除」する場合「除菌」は正しい表現です。一方、HPVは「virus (ウイルス)」であり、「細菌(生き物)」ではありませんから、「駆除」は正しい表現ですが、「除菌」は正しい使い方ではありません。ただ、患者様へ説明する場合「除菌」という方が分かりやすいとのことで、ここでは「HPVの駆除」=「HPVの除菌」という表現を使用させて頂きます。」
[IV] 異形成の発見---どうやって、自分の異形成を早く見つけるか
1)健診(自治体や会社の健診):多くの施設で子宮頚部 (膣部から頚部)擦過細胞診のみしか行われないので、真の検出率は低いです。健診結果がNILMの場合「異常なし」と判断されますが、本当に「異常なし」とは限りません。異形成がないかは不明です。即ち、NILMの結果だけでは安心できません。細胞診の項で説明したように、HPV感染者 (異形成)の半数以上はNILM(正常)と診断されます。健診では頚部細胞診だけでなく、HPV検査 (HPVの型を特定できない簡易型でも十分有効=費用は1000-2000円程度)を併用すべきです。自治体の健診体制を変更するのは容易ではありません。日本という国は、明らかに間違っている、あるいは時代に即していないような事でも、改善しようとすると、大変なエネルギーと時間がかかります。大事な事よりも大事でない事の方が優先される「超後進国」です。基本的な文化や考え方が2000年前と変化していません。健診体制が改善されるのを待つよりも、自分で考えて正しい検査を受けないと命取りになることもあります。自分の健康(命)は自分で守る。国や自治体に任せっきりにしない。子宮頚部の健診は、細胞診だけでは不十分。HPVの検査 (簡易型で良いので)が必要です。
上記のように通常の健診 (子宮頚部擦過細胞診)の精度は高くないですが、NILM以外が検出されたら、細胞診を再検するのではなく、具体的な型が判明するHPVの検査 (出来れば全ての型がわかる方法)と組織診 (コルポスコープで観察しながら行う),それに超音波を受けることが必要です。
2) 異形成に無関係な症状で婦人科受診した場合:頸癌や異形成に無関係な事で婦人科受診した際に、ついでに受けた子宮頚部細胞診でひっかかることもあります。結果が異常 (NILM以外)と出たら、むしろluckyと思った方がいいです。とにかく婦人科を受診したら、異形成 (前癌状態)を早期に発見するために最低限の検査:細胞診だけは受けないより受けた方が良いです。勿論細胞診では十分ではないですが、受けないよりましです。
[V] 異形成の診断(初診時に行う検査):以下4つの検査が基本です(表4)
1) HPV型別検査 (HPV typing):検査の項目で説明したように、HPVの検査には色々な種類があります。型を調べないと方針が決まらないので、「異形成」と診断がついたら、HPVが感染しているわけですから、その後に 正確な型が決まらない簡易検査(HPV陽性か陰性か)を受ける意味は全くありません。
保険適用のHPV検査(High risk型13種類のみを調べる検査:
厚生労働省が認可した保険適用のある検査です。 保険点数 2000点=20,000円、3割負担の場合 本人負担費用は6,000円。保険適応があるので、 日本のどの施設でも検査可能です。但し、この検査には、1) そもそも13種類のHPVの型しか検査できないこと、2) false negative (偽陰性:感染しているのに陰性と判定されること) が少なくないこと、3) 新生児の喉に感染すると、生命にかかわる「呼吸器乳頭腫症」の原因HPV 6,11が検査対象に入っていないこと、等の問題点があり、特に妊娠希望のある方には推奨できません。USA Today Jan 13, 2013: False-negative results found in HPV testingに米国での詳細が記載されています。この検査を希望される場合は、先ず組織診を行い、「軽度または中等度異形成」と診断をし、後日(別の日)に、HPV-13 (Surepath)を行う事になっており、同日に行うことが出来ません(厚生省の指導)。組織診の結果が「高度異形成」の場合は保険適用外とされています (厚生省指導).
HPV型判定検査は、異形成の管理の上で最も大切な検査です。当然ですが、日本で検査可能な全ての型を調べる必要があります。当院で検査可能な型は
6,11,16,18,26,31,33,35,39,42,44,45,51,52,53,54,55,56,58,59,61,62,66,68,70,71,73,82,84, 90, CP6108の31種類です。HPVは国際的には、High riskと Low riskに大雑把に二分されていますが、当院では4段階に分類しています。
表3に示したように癌化の可能性が高いいわゆる”high risk”型は15種類あります。私が2003年11月から検査を開始してからのdataに基づくと、最も危険なworst type(最悪の型)は16,18。次にriskが高い(dangerous)のは、31,52,58,45,33,82,35の7種類。high risk型の残り 6種類 (39, 51,56, 59, 66, 68)は, 16,18のような質の良くない特殊型(頸部腺癌、小細胞癌など)を発生することもなく、また短期間で癌化することも希で、ちゃんと通院すれば、あまり怖くない型です。26, 53, 70, 73は国によってはhigh risk型に分類されていますが、当院のdataから、high riskに認定しておりません。Moderate risk (癌化のrisk少しあり)と分類。6, 11, 42, 44, 54, 55, 61, 62, 71, 84, 90, CP6108 型は、Low riskで、癌化のriskはほぼありません。
このように型により癌化のリスクが判明します。これに基づいて、治療(管理)方針が決まります。High risk HPVが検出された場合は、感染HPVを駆除(除菌)するために治療的組織診を2-3ケ月毎に行います。細胞診/組織診の結果から、HPVが除菌できた可能性が出てきた場合(組織診:軽度異形成の疑い、細胞診:NILMの組み合わせが複数回継続した場合)に治癒判定で第二回目のHPV typingを行います。初診から通常は1-2年後です(特別経過良好の場合6-10ヶ月)。HPV型別検査は毎回の診察では行いません。
2) コルポスコピーで観察しながらの組織診(表5):軽度異形成 (CIN I)、中等度異形成(CIN II)、高度異形成 (CIN III)、あるいは頸癌(扁平上皮癌、腺癌)、いずれかの正確な病理診断が決定されます。但し、コルポスコープで正しい病巣を採取しないと誤診につながります。
3) 細胞診(表5):陰性(NILM:異常なし)の場合信頼度は低いですが、NILM以外の結果が出た場合は重要な情報になります。特に扁平上皮系ではASC-H, HSIL、腺上皮系ではAGC, AIS, adenocarcinomaが検出された場合、特に重要な情報となります。細胞診は異常と診断された場合、非常に有用です。
4) 超音波:異形成は肉眼的には見えないので、超音波では確認出来ません。異形成疑いとされた場合でも、診断が困難な子宮頚部腺癌の見落としを防ぐために超音波検査が必要です。また、異形成とは無関係な、子宮の奇形(見逃されていることが少なくありません)、子宮筋腫、卵巣腫瘍、嚢腫(奇形腫は見落としが多いです)の検出のためにも必要です。
[VI] 異形成の管理 (初診後の通院検査/治療)表6:管理(通院)の目標は原因
HPVを駆除(除菌)することです。HPVの型と組織診の結果により管理方法を決めています。
1) 基本方針なるべく円錐切除をしないで治療的組織診で異形成を寛解させる 。治療目標は, HPVの駆除(除菌)=これが最も重要です。 HPV検査は検査費用が高いので毎回は行いません。HPV駆除(除菌)ができたsignがあります(表6)。それは、活動性異形成(高度、中度、軽度)の除去:組織診の結果が「軽度異形成疑い」、またはkoilocytotic change alone, 3) 細胞診の結果が「NILM」の2点です。この機見合わせが3回以上継続した場合、HPV検査を行うと約90%の確率でHPVは駆除(除菌)されています。条件が2-3回以上継続した時点で患者様と相談し、第二回目のHPV型検査を行うようにしています。治療的組織診は最短で約12ヶ月(2-3ヶ月毎に年4-6回通院)、最長で2 -3年をめどとする。因みに当院での治療的組織診でのHPV駆除 (除菌)率は、2-3ケ月毎に通院した場合、1年で約60-70%、2年で約70-80%前後です。駆除(除菌)出来ない患者様の特徴は、1) 40歳以上、2) HPV vaccine (Gardasil)を受けていない、の2点です。最終的には100名の内10名前後は、いかなる治療(子宮全摘含む)を行っても、駆除 (除菌)出来ません。子宮全摘してもHPVが残存しているということは、膣まで感染拡大しているということです。
2) 治療的組織診で寛解(HPVの駆除=除菌)が得られない場合、早産のriskをもたらさないよう子宮頚部を最小限に切除して、その代わり、HPVを駆除(除菌)するために子宮膣部から頚管の奥まで広く蒸散する手術:「子宮頚部縮小円錐切除(頚管切除は5mm)+拡大蒸散術」を行う。
3) 初診時既に40歳以上で、高度異形成の範囲が広く、原因がhigh risk HPVの場合は、直ちに 通常の円錐切除(頚管7mm-10mm切除)+拡大蒸散術を行う
4) 方針の詳細
上記のような管理を行い、細胞診がNILM(異常なし)、組織診が軽度異形成 (CIN I)の疑い (=koilocytotic change alone)という結果が3回以上 継続したら、寛解したか判定します。2回目のHPV typingです。これで、High risk HPVが駆除(除菌)=陰性化したら、寛解です。通常は最短で1年前後(6-10ヶ月の場合もある)、2-3年以上経った場合は条件を満たさなくても、ご本人と相談の上、効果判定 (HPV typing) を行います。早期の妊娠希望がある場合は、効果判定を早く行う場合もあります。
[VII] 寛解の判定:治ったかどうかの治療効果判定 (表6)
感染HPV (特にworst type, high risk type) が駆除(除菌)されたらゴール(寛解)です。毎回治療的組織診とHPV typingをすれば、来院回数が少なくてすみますが、HPV typingは検査費用が高いので、HPVが駆除(除菌)できた可能性が出てきた時点で2回目のHPV typingを行います。駆除出来たsignは、組織診が「軽度異形成疑い」(Mild dysplasia, suspected, またはKoilocytotic change alone), 細胞診の結果が「NILM(異常なし)」,です。この組み合わせが3回以上 継続した場合に、HPV typingを行うと90%以上の確率でHigh risk HPVが駆除(除菌)=陰性化しています。陰性化後は、6ケ月後に細胞診/組織診を行います。この結果が、問題なし(細胞診:NILM、組織診:軽度異形成疑い)であればその後は1年毎5年間follow upとしています。
[VIII] HPV陰性化したら、癌のriskは直ちにゼロ(無し)になるのか
これはよくある質問です。答えはNoです。High risk HPVが陰性化しても、癌のriskは直ちにゼロにはなりません。勿論、High risk HPVが持続する(陰性化しない) 場合に比べ、癌化のriskは低下します。陰性化したら、直ちにriskがゼロになるのではなく、年月を経て次第に低下していくと考えられます。
High risk HPV消失後に、一旦改善した異形成(軽度異形成疑い=非活動性)が中等度や高度異形成 になる事もあります。通院間隔が3-5年空くと、稀に癌が発生することもあります。胃がんの原因のピロリ菌の場合も同じです。ピロリ除菌後に胃癌が発生することもあります。理解し難い場合、タバコを例にとると分かり易いです。例えば、20歳から30歳まで喫煙していて、本日禁煙したとします。これで明日から肺がんにならないと思われますか?そんなことはあり得ないですよね。禁煙して5年後に肺癌を発症したら、やはり10年も喫煙していたからだと考えるのではないでしょうか。HPV、ピロリの陰性化も、禁煙も、陰性化後あるいは禁煙後に、癌化のriskは突然無になるのではなく、時間の経過とともに低下して行きます。また癌発症のriskは、HPV, ピロリ菌なら、感染期間 (特定は困難ですが) が長い程、タバコなら一日の本数 X喫煙期間 (これは本人が分かります) の数値が高い程、癌化のriskは高くなり、HPV、ピロリ菌が陰性化後、禁煙後の癌化のriskが継続する期間も長くなります。一方、HPV, ピロリ菌が陰性化後、タバコなら禁煙後、何年経ったら癌のriskから解放されるのか? これを答えられる医師はいません。但し、当院のdataから、high risk HPV陰性化後、再び異形成が進行して中等度や高度異形成 、稀に頸癌になるというevent (事件)は、陰性化後5年以内に起こっています。
これらの事を考慮して、当院では、High risk HPV陰性化後、5年間は年に一度受診して細胞診/組織診で管理しています。最終診断がbestの結果(細胞診:NILM, 組織診:軽度異形成疑い、またはkoilocytotic change alone)であれば、5年で管理終了とします。その後の健診(検診)はご本人と相談して決めております。
[IX] 当院における異形成の手術について(表7)
円錐切除を行わないで蒸散 (焼き切る)だけの手術と、蒸散に加えて円錐切除を行う2通りの方法があります。「複数組織診+拡大蒸散術 (円錐切除無し)」「縮小(頚管5 mm切除)円錐切除+拡大蒸散術」と「標準的(頚管7-8mm 切除)円錐切除+拡大蒸散術」です。全て日帰り手術です。
1) 複数組織診+拡大蒸散術 (円錐切除無し)
2) 「縮小円錐切除(頚管5 mm切除)+拡大蒸散術」
異形成病巣を取り切る(病理診断:切除断端=陰性)ためには、最低5 mm切除が必要(限界)です。勿論、頚管の奥に異形成が伸展している場合、頚管5mm切除では不十分です。それを補うために頚管までの拡大蒸散術を行います。元々の子宮頚管の長さには個人差がありますが、5mm切除だと早産のriskは低いです。費用は80000円前後。
[X] 円錐切除の効果判定(表8)
寛解の条件は、異形成が取り切れること (切除断端陰性)と、原因HPVの陰性化 (特にHigh risk HPVが駆除されること)です。日本の殆どの病院に於いて、効果判定は「異形成が取り切れたか(断端陰性)」のみで行われており、術後HPV検査 (HPV 陰性化の確認)は行われていません。「断端陰性」=異形成が取り切れても、原因high risk HPVが残っていると、寛解したことにはなりません (治っていません)。再び高度異形成、さらには癌化する可能性があります。高度異形成が取れて(断端陰性)、HPVも駆除(除菌)出来たら寛解です。円錐切除の効果判定に、術後HPV検査(HPV陰性化の確認)は絶対に必要です。このことを全国の婦人科医に理解して頂き、術後効果判定ににHPV検査が組み込まれるよう願います。
[XI] 円錐切除の合併症:円錐切除はなるべく回避したい
まとめの項に記載したように、手術切除範囲も不明確で、合併症が多く、特に術後長期(生涯)に及ぶ合併症 (後遺症)=「子宮頚管狭窄または閉鎖」を熟知していたら、「簡単な手術」とは言えず、安易に行うべき手術ではありません。円錐切除は婦人科で最も合併症の頻度が高い手術の一つです。また頻度が高いだけで無くやっかいです。主な合併症は、「術中術後出血」と「子宮頚管狭窄または閉鎖」の2つです。
1) 術中術後の子宮出血:術中や術後3日以内の出血は医師の手術操作や技術が原因です。医師が適切な手術を行っても術後出血が起こる場合があります。術後2週目からの約10日間です。この頃かさぶたが剥がれて、動脈性に出血することがあります。時には入院治療 (縫合やカテーテルによる血管の塞栓術)が必要な程、大量出血する場合があるので、手術当日からの約28日間は注意 (脈拍が上がるような行為は避ける:入浴、運動、飲酒、辛いものを食べない等)が必要です。但し、子宮出血は術後約1ヶ月で必ず解決しますから、大出血が起きた時点では患者様は狼狽することもあり、合併症としては目立ちますが、必ず解決するという点で後遺症的なものもなく、術後管理さえきちんとすれば大きな問題ではありません。
2) 子宮頚管狭窄または閉鎖(子宮口の狭窄または閉鎖):これは本当にやっかいです。術後後遺症として、一生涯つきまといます。私が、安易に円錐切除をしない最大の理由がこの合併症です。円錐切除を受けて半年以内に閉鎖する場合(原因)は、本人の体質、基礎疾患、円錐切除のタイミング、医師の管理等に問題があると考えられます。術後1年また数年大丈夫でも、更年期から閉経期以降になると、高率に狭窄か閉鎖が起こります。月経がある年代で閉鎖すると大変です。排出すべき月経血が子宮内に溜まり、卵管から腹腔内に逆流して腹膜炎を引き起こす場合もあります(入院治療が必要な場合あり)。子宮口の狭窄または閉鎖が閉経後に生じた場合は、日常生活に大きな問題はありませんが、子宮内膜癌 (子宮体癌)の検査が出来なくなります。私自身はこの問題に20年以上取り組んで来ました。
3) 子宮頚管狭窄または閉鎖(子宮口の狭窄または閉鎖)が起こり易い原因(表9)
産後1年以内、あるいは授乳中は、術中、術後に大出血するので、この時期に円錐切除を行うことは危険です。当院では禁忌としています。産後1年経過するまで、治療的組織診で進行しないよう管理します。そして、産後1年以上経過した時点で、高度異形成が改善していたら、円錐切除は行いません(円錐切除の回避成功)。高度異形成が継続していたら、やむを得ず円錐切除を行います。
4) 子宮頚管狭窄または閉鎖予防の対策
[XII] 日帰り円錐切除術式の歴史
私自身は、1997年から日帰り円錐切除術式を開始しました。当時はとにかく、高度異形成病巣を取り切る事、術後出血を完全予防すること、これら2点のみを目的とした術式でした。術前にHPVの型も調べず、とにかく高度異形成は全例日帰り手術円錐切除を行っていました。全例異形成を取り切るために頚部(頚管)は12-15mm前後切除、その後の縫合は、子宮口の真ん中を2-3mm開けて、頚管の3時と9時を二重にがっちりと縫合して出血を予防する方法でした。更に40歳以上や、腺異形成では、完治率を向上させるために、頚管を追加切除していました。
2009年頃からの基本方針は、1) 異形成病巣の切除だけでなく、原因HPVの駆除(除菌)もすること、2)妊娠、出産に影響の無いよう切り過ぎないようにすること、3) 2大合併症である、術後の大出血、子宮頸管閉鎖 (狭窄)を予防すること、としました。これらを満たすために、切除する長さを以前より短くしています。私が癌研大塚病院や大学病院勤務時代には、1) 3) を考慮した術式で、頸管切除長は約12-15 mmでした。個人差はありますが、平均的な子宮頸管長は30-35mmですから、1/3以上切除していました。その後の検討で、切り方を工夫すれば、頸管は7 mm切除で95%以上病巣が取り切れることが分かり, 2013年9月から子宮頸管切除長を7 mmにするようなprobe (頚管切除する尖端器具)を作成しました。その甲斐あって、手術の成功率も高いまま、早産riskも大きく改善しました。その後、更なる研究の結果、2021年から子宮頸管を約5 mmで切除、その上方を高周波電気メスで焼灼する方法に改善しました。7 mm切除でも早産のriskは高くはありませんが、5 mm切除であれば、早産のriskは極めて小さいので、妊娠希望のある女性でも安心して手術を受けることができます。頚管の奥に異形成が伸展している場合、頚管5mm切除では不十分です。それを補うために頚管までの拡大蒸散術を行います。治療成績も良好 (異形成治癒切除率 90%以上、HPV駆除(除菌)率 80%以上)で、早産のriskの少ないこの術式を「縮小円錐切除(頚管5 mm切除)+拡大蒸散術」と呼んでおります。この術式であれば、術後出血も希(<1%)で、早産の心配も無いことから、安心して受けて頂くことが出来ます。現時点では、これが当院における主な術式です。
[XII] あらゆる治療をうけても異形成が寛解しない=HPV駆除(除菌)できない患者様の管理と対策(対応)
通院前に読んで頂きたい内容です。
当院での治療的組織診でのHPV駆除 (除菌)率は、2-3ケ月毎に通院した場合、1年で約60-70%、2年で約70-80%前後です。駆除(除菌)出来ない患者様の特徴は、1) 40歳以上、2) HPV vaccine (Gardasil)を受けていない、の2点です。日本人の多くは20-35歳前後に感染すると予想されます(勿論例外はあります)。実際の感染の時期は本人でも分かりません。40歳以上でHPV駆除(除菌)成功率が低いのは、感染してからの時間が長いため、感染の範囲 (HPV感染は子宮膣部のSC junctionから開始する)が、上方(頭側)は頚管(組織診の検査器具が届かない)、前方は膣壁まで及んでいる可能性が高いからです。頚管は膣部からせいぜい5-10mm程度しか組織診で切除できません。膣壁は血管が豊富で深い組織診は危険です。組織診でHPV駆除(除菌)出来る範囲は、SC junctionから前面は子宮膣部全体で膣壁の手前まで、頚管は子宮口から5-10mm程度までです。HPV感染がこの範囲内に留まっていると、HPV駆除(除菌)可能です。40歳以上の多くの女性では、感染開始から時間が経っているために感染範囲が広いので駆除(除菌)率が低いと考えられます。逆に20代の女性では、感染してからの時間が短いため、1年以内のHPV駆除(除菌)率は90%以上です。感染HPVが5-10種類あっても、あっという間に全てのHPVが駆除(除菌)出来ることも少なくありません。やはり感染開始から治療開始までの時間は大切です。
子宮全摘の術式を工夫すると、HPV駆除(除菌)率は向上する可能性があります。「子宮全摘」の手術内容は、癌専門医と一般の産婦人科医か、または誰が行うかで大分異なります。術式工夫の要点は子宮からつながっている膣の部分を長めに切除することです。癌専門医なら、何cmでも膣壁延長切除可能です。出来れば、進行癌の広範性子宮全摘術の場合と同様に2-3 cm以上膣壁切除して欲しいです。そうすると、単純な子宮全摘よりもHPV駆除(除菌)率は向上すると考えられます。
[XIII] 異形成の進行とホルモン環境
これは、これまでの臨床経験に基づく私個人の見解ですが、時間が出来たら、科学論文にしたいと思っている貴重な情報です。
異形成の癌化に関与する最大の因子がHPVの型であることは間違いないと思います。そのHPVの活動性(activity)には女性ホルモン(Estradiol=E2)が関与するというのが私の意見です。まだ、科学論文にしていないので、簡単に記載します。私たち人間が過ごしやすい快適な気候 (夏では温度:25-28度/湿度:45-60%、冬では温度:18-22度/湿度:55%-65%)があるように、HPVが活動しやすい快適な女性ホルモン(Estradiol=E2)濃度があるというのが私の仮説です。具体的には、妊娠していない性成熟期、即ち女性ホルモン(Estradiol=E2)の濃度(40-500 pg/ml)がHPVにとって快適で活発になれる環境だと考えます。妊娠中は濃度が10-50倍と高くなります。一方、更年期~閉経後は 40 pg/ml以下からほぼゼロになります。この濃度では、HPVの活動性が低下すると推定されます。女性ホルモン(Estradiol=E2)濃度が高すぎても、低すぎてもHPVが元気でなくなる(活動性が低下する)というのが私の理論です。妊娠中および閉経後は、HPVの活動性(activity)が低下するために、異形成が癌化しにくいという仮説(理論)です。ただし、この理論は、異形成の90%を占める 扁平異形成に当てはまるものであり、残り10%を占める「腺異形成」に関しては、現時点で適用できるか分かりません。腺異形成は特別に、慎重に管理する必要があります。
[XIV] 異形成に関する Q and A
扁平系の異形成であれば問題ありません。ただし、HPV 16,18感染の高度異形成であれば、円錐切除を優先した方がよいと考えられます。円錐切除を予定していたのに、妊娠した場合は、riskを理解して頂いたうえで、妊娠継続です。ただし、腺系の異形成では、case by caseです。
最近増加傾向のある状況です。不妊治療中ですから、年齢は35歳以上~40代中心です。即ち、HPV感染から時間が経っており、感染範囲が広い→HPVを駆除するのが容易ではない方が多いです。先ずは異形成の初診時の検査を行い、感染HPVの型により、癌化のriskを判定します。
1) High risk HPVの感染がない異形成 (軽度、中等度)であれば、不妊治療の邪魔にならぬよう、6-12か月毎に治療的組織診/細胞診/超音波で管理します。不妊治療には影響しません。
2) High risk HPV感染で軽度、中等度異形成の場合も、不妊治療を続けながら、初回から2-3か月後に2回目の治療的組織診/細胞診/超音波を行います。結果が、軽度~中等度なら、不妊治療の邪魔にならぬよう4-6か月毎に管理していきます。高度に進行した場合は、縮小円錐切除で根治を目指すか、蒸散術で時間稼ぎをします。あくまでも不妊治療優先です。
3) HPV16,18型で高度異形成、および腺異形成の場合は、不妊治療を2-3か月中断して円錐切除を行います。ただし、不妊治療や将来の出産のriskを考慮して、術式は出来るだけ縮小円錐切除にしたいです。治療後の病理結果が頸癌であった場合は、進行期毎に追加治療の方法を検討します。高度異形成でHPVが駆除できた場合は完治ですから、不妊治療に戻ります。円錐切除後にHPV 16, 18が残存した場合は、追加治療が必要になる場合もあります。不妊治療に戻るかは、Case by caseになります。
4) 他のhigh risk HPVで高度異形成の場合は、不妊治療を2-3か月中断して縮小円錐切除で根治を目指します。治療後の病理結果が頸癌であった場合は、進行期毎に追加治療の方法を検討します。高度異形成でHPVが駆除できた場合は完治ですから、不妊治療に戻ります。円錐切除後にhigh risk HPVが残存した場合は、追加治療が必要になる場合もあります。不妊治療に戻るかは、Case by caseになります。
ご本人が円錐切除を希望されない場合、および異形成の範囲が狭い場合は、蒸散術で時間稼ぎをするか、2回目の治療的組織診/細胞診/超音波を初回から2-3か月後に行い、その結果が高度異形成なら縮小円錐切除。軽度~中等度に改善していたら、不妊治療の邪魔にならぬよう3-4か月毎に療的組織診/細胞診/超音波で管理します。経過中に高度異形成に進行したら、縮小円錐切除です。いずれにしても、頸癌が検出されない限り、厳重管理しながら、不妊治療が継続できるよう最大限の努力をします。
5) まとめると、HPV 16,18型で扁平系の高度異形成,および腺異形成の場合のみ、不妊治療を2-3か月中断。異形成の治療が優先されます。それ以外の場合は、年齢、具体的なHPVの型、異形成の範囲と程度(軽中高)といった状況を考慮して、不妊治療と異形成管理のバランスを考えて方針を立てます。途中で方針が変更される事もあります。
答えはNoです。異形成には扁平上皮領域にHPV感染して発生する扁平異形成 (軽度、中度、高度の3段階がある) と子宮頚部の腺領域にできる腺異形成(診断が困難で軽中高の分類無し)があります。「異形成の進行とホルモン環境」の項で記載したように、90%以上を占める扁平異形成は、妊娠中進行しにくいです。妊娠前の「異形成」の診断が、コルポ下の組織診で正確に行われていれば、高度異形成であっても、通常の妊娠、分娩の管理で問題ありません。また産後も授乳中は、先ず進行しません。産後月経が起きて、ホルモン環境が元に戻ってくると、high risk HPV感染の異形成は進行する可能性が出てきます。当院では、異形成管理中に妊娠した場合、産後1年後、または月経再開後に受診するよう指示しております。妊娠前が、HPV 16,18感染による高度異形成の場合に限り、産後3-6か月で受診して頂いております。腺異形成に関しては、解剖学的に妊娠中は細胞診、組織診ともに実施が困難で、妊娠中の経過の詳細は明らかにされていません。妊娠前に「腺異形成」と診断されて妊娠した場合は、産後3-6か月に受診して頂いております。
子宮頸癌の診断が組織診で正確に診断されていることが前提です。進行期がIA1期であれば、そのまま出産し、産後に再度診断を行い。進行期に基づいて手術方法を決定します。IA2期以上では、case by caseで、主治医と十分に相談すること、2nd opinionを受けられることをお勧めします。