AG1:先発医薬品と同等の原薬、添加物、製法で、先発医薬品メーカーの工場を使い同一の製造技術によって製造。
AG2:先発医薬品と同等の原薬、添加物、製法ですが、製造は後発医薬品メーカーの自社工場で行う。
AG3:先発医薬品と添加物や製法は同等ながら、異なる原薬を使用して、後発医薬品メーカーの自社工場にて製造。
国民からするとAG=AG1であり、何故AG2,AG3があるのかと思いますね。恐らく、今後は、AG2,3でも問題製品が出てくると思います。万が一、AG1でも不良薬品が出てきたら、もはやジェネリック産業は終わりです。2022年現在もGMP違反をする製薬会社があるため、「AG」といわれても、100%信用することは出来ません。抜き打ち検査は日本ではなく、米国のFDAに御願いしたいですね。このような不祥事が多いジェネリック業界にあって、GMPをきちんと順守して、なおかつ会社の利益よりも国民の健康を優先に考えている信頼出来る製薬会社があるのも事実です。私自身が確認しているので間違いないです。会社名は記載しませんが、その会社の製品に関しては安心して服用できます。その他の会社に関しては、製品毎に私の知る範囲でアドバイス致します。当院としては、基本的に先発薬を処方しますが、AGまたはジェネリック医薬品を希望される方には、これらの背景を理解された上で、処方させて頂きます。勿論質問があれば、可能な範囲でアドバイスを致します。AGおよびジェネリック医薬品問題に関しては、ご自分でもnet検索等で情報収集を御願い致します。
医療スタッフと受診者間で問題が起こる原因の一つはcommunication不足、確認不足です。
完璧な人間は存在しません。小さな事まで含めると必ずミスはあります。薬の処方間違い(薬品名、日数など)、検査内容が本人の希望と異なる、クリニック内での薬(ピル等)の渡し忘れ(受け取り忘れ)等です。問題が起こる場合、どちらか一方に100%原因がある場合は稀です。
そもそも日本語は表現が曖昧で、businessに不向きな言葉です。また、人前で自分の意見をオブラートに包む事無く「はっきりものを言う」こと自体「悪」とする日本独特の間違った文化もあります。日常会話なら仕方ないですが、クリニック内での会話は健康に関わる大切なcommunicationですから、日本文化を無視して、明確に遠慮無く、思った事を口に出して頂くよう御願いします。
また、診察室内では検査内容(血液検査項目含む)の確認、受付では支払い時の金額、おつりの確認、院内処方(ピルなど)の確認も、必ず御願い致します。毎日の仕事で100点満点をとり続けているミス無しの人間は居ません。私は受診者を家族と思って接しています。
また、当院のスタッフは、受診者の味方です。スタッフと受診者一丸となって、ミスをゼロにしましょう。ご協力宜しく御願い致します。
電話では本人確認できないため、電話で診療内容(受診日、疾患名、検査結果、治療内容など)をお伝えすることが個人情報保護法で禁止されています。病院、医院には生命保険会社、役所、弁護士、銀行、知人(?)その他、色々な業種の人から電話がかかってきます。実は診療内容どころか、当院に来院されている事を伝えること自体、法律で禁止されています。医院は患者様の大切な情報を管理する義務(守秘義務)があります。電話再診など予め確認されている場合を除き、ご本人またはご家族が電話をかけてこられても、大変申し訳ありませんが、診療内容に関しては、お答えできません。守秘義務のためですので、ご理解して頂くよう御願い申し上げます。
保健医療制度は、保険証に基づいて行われます。後進国日本の保険証は電子化されておらず、会社退職後も「使用可能」です。クリニック側では、この「不正使用」の判断はできません。不正使用した場合、診察日の2か月後に加入保険組合(厚生省当局)からクリニックに「保険証期限切れ不正使用」の書類が届き、クリニックには「確認ミス」の指導が入ります(確認は不可能ですが)。そして、クリニックが患者様に替わって「有効期限が切れているのに保険で診療できるように」事務手続きを行います。本人は悪気がないかもしれませんが、「不正使用」は期限切れの定期券でバスに乗るような行為で違法です。全国の医療機関で本当に困っております。退職後に期限切れの保険証を持参されないよう御願い致します。
保険診療とは、「診察日に実物の保険証を提示した後に、診療を受ける事」と規定されています。当日以外に保険証を持参されても、また実物以外の保険証(コピー等)を持参されても、保険診療はできません。当日保険証なしで診療を受ける場合は、全額自己負担(自費診療)になります。当院の自費診療費用は、保険診療費用の150%です(自費診療の割合はクリニックで自由に決められることになっています)。当院では保険証持参忘れに対して救済処置をとっています。救済処置には2つの方法があります。但し、全額は戻りませんので、ご注意下さい。一つは当院での手続き、もう一つは、ご自身が加入されている健保組合で行う方法です。当院での救済方法は、以下の通りです。
処方箋の有効期限は「保険医療機関及び保険医療養担当規則」によって定められており、発行日を含めて4日間です。3月8日(水)に交付された処方箋だとすると、3月11日(日)が期限となります。注意すべき点としては、土日や祝日などが入ったとしても、考慮されない点です。そのため連休に入る際には特に注意が必要です。有効期限が切れてしまった処方箋は無効となるため、薬局で薬を受け取ることはできません。期限切れの処方箋を薬局に持参すると、以前は薬局が病院(医院)に問い合わせ、「処方箋期限を延長できますか?」と依頼するケースもみられましたが、厚生労働省からの通達もあり、現在は薬局でそのような対応は禁止されています。それにもかかわらず、期限切れの処方箋を薬局に持ち込まれる方もいます。期限切れの処方箋を持参された場合の薬局の対応は「期限切れです。薬局では何もできません」と答えるよう厚生労働省から指導されています。当院は、開院以来、患者様のためと思い、期限切れの処方箋の期限延長を許しすぎて、2021年に保険当局から指導を受けましたので、現時点では期限切れの処方箋に対する救済処置ができなくなりました。期限切れの処方箋を薬局に持ち込まないよう御願い致します。
処方箋を薬局に持参して薬を受け取るまで待てないという場合、とにかく、処方箋を薬局に持ち込んで下さい。後日薬を取りに来るという方法もあります。時間の方が大事なら郵送も可能です(送料はかかると思います)。また、有効期限内の処方箋をFAXしておいて、後日薬を渡してくれる薬局もあるようです。
処方せんネット受付サービス(スマホ等で処方せんを撮影して送る)という方法もあります。遠方から来院されている場合、当日薬局に処方箋持ち込んで、後日送ってもらうように交渉して下さい(送料がかかると思います)。処方箋切れは本当に大変です。
例えば、長期処方箋の場合は大ごとになります。ホルモン剤、降圧剤、糖尿病の薬等を180日分処方して期限切れになった場合、保険適用での処方箋は180日経たないと発行できません。即ち、180日間薬を服用出来ないことになります。
また、抗生物質の場合、同月内の処方は当然保険適用不可、通常は翌月も不可となり、少なくとも2月以上後にしか抗生物質は保険適用されません。本人は薬を服用していなくても、処方箋が発行されている限り、カルテ上(保険医療上)は薬を服用していることになります。既に保険適用で処方箋が発行された後なので、再発行は自費になります。処方箋の再発行が保険適用で行われると、いくらでも薬を受け取ることができるため、法律で禁止されています。
また、薬が睡眠薬、抗不安薬などの場合は、自費での再発行も不可能です。理由はお分かりだと思います。
連休前の診察日で診察終了時間が医院付近の薬局の終了時間を過ぎる場合など、医師が事情を認めた場合、例外的に処方箋発行時に期限延長を記載することは可能です。あくまでも例外処置ですので、通常の診療では処方箋の期限延長を記載することはありません。
また、処方箋発行後(会計終了以降)の期限延長記載は違法になります。また期限切れになった処方箋に、ご自身で日付を修正したり付け替えたりすることは「違法」となり処罰の対象になりますので、絶対に行わないで下さい。処方箋の有効期限は、当日から4日以内です。
紛失や「うっかり」を予防するためにも、医院を出た直後に薬局に処方箋を持参されるよう御願い致します。
次に当院の具体的な診療内容を説明致します。
基本的には、婦人科腫瘍を専門とするクリニックで、診療内容は以下のように分類されます。
1) 子宮筋腫:先ず肉腫で無い事を確認する。筋腫は出来る部位により症状に特徴があり、治療方法も異なる。悪性では無いので、「子宮全摘」が本当に必要なケースは希である。日本では「子宮全摘」を行い過ぎの傾向がある。将来の事を考慮し、慎重に手術適応を決める必要がある。筋腫は女性ホルモン(Estradiol=E2)に依存した腫瘍である。閉経すれば解決します。閉経までをいかに管理(治療)するかにつきます。女性ホルモン(Estradiol=E2)を下げるか、女性ホルモン(Estradiol=E2)の働きを抑えるようなホルモン療法が治療の主体になります。なるべく手術をしないで管理します。
2) 子宮頚管ポリープ:電気メスによる日帰り手術。再発しないように、根元を焼灼する。ポリープに見えて、筋腫(筋腫分娩)であったり、希に悪性の肉腫の場合がある。摘出物の病理検査が重要。
3) 子宮内膜ポリープ:不妊の原因になり得る。悪性変化はしない。ホルモン剤で女性ホルモン(Estradiol)を下げると縮小する場合もある。不妊の原因にならない場合手術は不要。勿論妊娠希望が無い場合、治療は不要です。
4) バルトリン腺嚢胞、バルトリン腺炎、バルトリン腺膿瘍:バルトリン腺は、腟の入口から1~2㎝奥の左右(膣の入り口は円形に近いので時計の文字盤に見立てると5時と7時方向)に存在するエンドウ豆大の分泌腺です。バルトリン腺で作った粘液は、太さ2mmの導管(管)を通して膣壁の開口部から膣内に分泌され、性行為を滑らかにするための役割を果たしています。性的刺激で分泌量は増えます。バルトリン腺の病気の99%は良性ですが、希に悪性(バルトリン腺癌)の場合があります。
5) 良性嚢胞性卵巣腫瘍:卵巣嚢胞(=卵巣嚢腫):卵巣の一部が袋状になり、中に液体または脂肪が溜まったできもの:中味がさらっとした水のような液体の場合:漿液性嚢胞(嚢腫)、粘り気のある液体の場合:粘液性嚢胞(嚢腫)、血液の場合:卵巣子宮内膜症(米国ではchocolate cyst)、脂肪がそのままか殆ど溶けた状態、その他、髪の毛、歯、甲状腺、気管支などを含む場合:奇形腫(皮様嚢腫).
6) 良性充実性卵巣腫瘍:充実性腫瘍は、75%以上が悪性ですが、25%は良性です。良性か悪性かは、婦人科腫瘍専門医なら超音波で、また経験豊富な放射線診断医ならMRI(造影)で診断可能です。線維腫と莢膜細胞腫が代表的です。良性なのに腹水や胸水が貯留することもあります。腹水があると、悪性と誤診される場合があります。
癌と間違えて(誤診されて)子宮や卵巣を摘出してしまうことがある->本来手術は不要の疾患です。
1) APAM(子宮ポリープ状異型腺筋腫):子宮内膜癌(=子宮体癌)に見えて、実は癌では無い病気です。私は1997年にAPAM症例(24歳)を診断しました。最初の病理医の診断は「子宮内膜癌、類内膜型, G2」でした。私が勤務していた癌研大塚病院の病理医の診断も同じく「子宮内膜癌、類内膜型, G2」でした。私の診断は子宮内膜癌では無く、1996年に卵巣癌の研究目的で留学していたGeorge Washington University, Medical CenterのSteven G. Silverberg先生から教えて頂いた「癌に見えて癌では無い」APAMでした。予定されていた手術を術前日に中止し、その後1年以上厳重にfollow upして、子宮内膜癌を否定しました。APAMの確定診断をした後に、お子さんを二人出産され、50歳になられた現在も私が通常の定期検診をしています。当時日本では、殆どの医師がAPAMという病名すら知らない状況でした。APAMは粘膜下筋腫の仲間です。子宮全摘は不要です。腫瘤摘出後に妊娠も普通通り可能です。病理学的には、子宮筋腫の筋層内に子宮内膜の腺組織が混入(迷入)している状態です。内膜が本来あるべきところから、違う場所に混入(迷入)して居心地が良くないために腺組織の顔つきが変わって癌に見えてしまう、という病気です。筋腫の中に含まれている子宮内膜が、本来の子宮内膜に比べ、より癌化しやすいかは不明です。子宮内膜が毎月剥げ落ちる(外に出てくる)現象を月経といいます。内膜に出来るものは人間か腫瘍(内膜癌か内膜polyp)です。人間が出来たら「妊娠」と言います。腫瘍が出来たら内膜polypか内膜癌(体癌)です。毎月内膜が剥げ落ちて外に出てきたら(毎月月経があると)、人間も腫瘍も出来ません。従って、毎月ちゃんとした月経があると子宮内膜癌(子宮体癌)は発生しません。但し、本人が月経と思っても、4-5日で終わらず、だらだらと切れの悪い月経とか、いったん終わったと思ったのちに、また少量の出血がある場合は、内膜がきれいに全部剥げ落ちていない可能性があります。その場合、毎月月経があっても、剥げ落ちなかった内膜に癌が発生することはあります、従って、初日少し出血、2日目増量、3日目から減少、4-5日で終了という、きれいな月経のパターンなら大丈夫です。いつもと違ったパターン、特に切れの悪い月経は要注意です。担当医から「子宮内膜癌(子宮体癌)」の診断(宣告)を受けた場合に、毎月ちゃんとした月経がある時は、「月経が毎月あるので子宮内膜癌(子宮体癌)にはならないのでは?」と聞いて確認して下さい。質問に対して納得のいく説明がなければ、2nd opinionを受けて下さい。APAMの診断は、局所麻酔か全身麻酔をして、内膜全面掻爬かTCR (Trans Cervical Resection; 経頸管的切除術)で腫瘤を摘出します。TCRの方が確実です。お腹を切るのではなく、膣から子宮鏡で観察しながら、電気で腫瘤を切除します。毎月月経があるのに、病理診断が「子宮内膜癌(子宮体癌)」の場合、病理標本(プレパラート)を借用し、2ndopinion, 3rd opinionを受けることを推奨します。APAMと確定診断がついたら、治療は、粘膜下筋腫と同じ扱いです。検査で腫瘤(APAM)が取り切れた場合は、妊娠希望時期の直前まで食事療法のみで経過観察するか、低用量pillを内服して女性ホルモン(Estradiol=E2)を減らすか、黄体ホルモン剤を内服して女性ホルモン(Estradiol=E2)作用を抑える等の、再発予防策が必要です。APAM腫瘤が残存している場合は、治療として食事療法に加え、LH-RH(Gn-RH) agonist注射で6か月以上間閉経状態にして、残存APAM腫瘤を小さくします。その後に低用量pillか黄体ホルモン剤を内服してAPAMが再び大きくならないよう管理します。APAMは子宮筋腫の一種ですから、前癌状態と考えてビクビクする必要はありません。術後ホルモン療法で管理したら、普通に妊娠、出産出来ます。APAMが理由で帝王切開になることはありません。写真1,2がAPAMです。因みに写真3が、本当の「子宮内膜癌、類内膜型、G2」です。
写真 1 APAM
写真 2 APAM
写真 3 子宮内膜癌, 類内膜型G2
2) LEGH((Lobular endocervical glandular hyperplasia:分葉状頸管腺過形成):婦人科の悪性腫瘍の中でも特に予後不良の「子宮頚部腺癌」、あるいは子宮頸部腺癌の特殊型である「子宮頚部悪性腺腫」と誤診されることがあります。医師も患者も「癌」と思って手術するので、術後の病理診断が出て初めて癌ではないことが判明します。ところが、経験の少ない病理医だと、病理医までが、子宮頚部腺癌あるいは「子宮頚部悪性腺腫」と診断した場合は、どうしようもありません。婦人科担当医、病理医が癌と診断(誤診に気づかず)していると、患者様は知識がないので、「癌」ではなく「LEGH」では無いかと考えることはあり得ません。実は、これまでに全国の病院でそのようなことが起こっています。病理診断を専門とする病理医が誤診する場合も希ではありません。私が以前勤務した癌研病院の病理部でさえありました。不可抗力というしかありません。治療に入る前に、診断がいかに大切か分かって頂ければ有り難いです。また、病理医は常に、海外の論文、学会発表に目を通し、生涯勉強しなければなりません。
写真 4: LEGH:他院で癌 (子宮頚部悪性腺腫)と診断されましたが、癌ではありません。婦人科の専門医に対する啓蒙活動の一環として、学会で発表しました。
3) 上記2疾患の問題点:上記2つの疾患の問題点は、担当する婦人科医も病理医も、「癌」では無いのに、「癌」と診断した場合、永遠に「癌では無い=誤診」に気づかないと言うことです。勿論、後に病理に詳しい婦人科医、または病理医が、以前の標本(プレパラート)を見直せば、癌か癌では無かったか判明します。しかしながら、その場合、あくまでも臨床研究として学会あるいは論文で発表するだけであり、既に子宮摘出を受けた患者様に事実(真実)を伝えることは無いと思います。そのような事をしたら、日本という文化を考えると、婦人科学学会あるいは組織の中で生きていけなくなると思います。残念ながら、日本はそういう国です。癌では無かった患者様は、癌と信じて、術後あるいは、術後に抗癌剤治療まで受けて、その後、感謝しながら5年あるいは、それ以上通院されていると思います。やはり、病気は治療前に「正確な診断」を行うことが全てです。
癌に見えなくて、実は癌である。
1) 頚管ポリープと誤診されることがある子宮肉腫:子宮頚管ポリープ:20代の女性。ある大学病院で頚管ポリープと診断され、約2年間に10回以上、「ポリープ切除」して、経過がよくないため最終的に子宮全摘を施行。その後に亡くなられたcaseがあります。病理診断が正確に行われなかった事が原因です。担当医の技量不足、危機感不足が原因です。決してあってはならない医療事故です。病理の最終診断はポリープではなく「肉腫」でした。
対策:「頚管ポリープ切除」を受けたら、病理組織の結果を聞くだけでは無く、必ず書類で受け取ること。子宮頚管ポリープは再発しやすい事は事実ですが、ポリープ切除を1年に3-4回以上行うことは通常はありません。その場合は、病理レポートを持って2nd opinionを受けるべきです。また、頚管ポリープを切除したら、病理診断で頚管ポリープの根元に「腺癌」が見つかったcaseもあります。病理診断の重要性を理解して頂ければ有り難いです。
2)卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫):卵巣子宮内膜症が癌化する事を、私は1990年に見つけ出し、学会で発表しました。それ以来「卵巣子宮内膜症=チョコレート嚢腫は卵巣癌の前癌状態である」と主張してきましたが、広く受け入れられませんでした。2004年に北海道婦人科腫瘍研究会に於いて「卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢胞)は卵巣癌の前癌状態である」という演題で特別講演を行いました。少なくとも北海道では「卵巣子宮内膜症=チョコレート嚢腫は卵巣癌の前癌状態である」事を受け入れて頂いたような感じがしました。一部の先生は「前癌病変と言い切るのは時期尚早では?」と、まだ受け入れられないようでした。日本全体で卵巣子宮内膜症=チョコレート嚢腫は卵巣癌の前癌状態である」と認識され始めたのは、2006年です。私が病理学的に証明して以来、16年かかりました。今は、この事を否定される医師はいないと思います。それでも、大病院や画像診断センターで、既に卵巣癌が発生している卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫)において「卵巣癌」の見落としがあります。残念な事にこの文章を記載している当日(2023年3月)に卵巣子宮内膜症から発生した卵巣癌に気付かず、卵巣子宮内膜症として 黄体ホルモンル療法を受けている患者様が2nd opinionで来院されました。このcaseもいわゆる大病院での誤診です。決して難しい診断ではありません。日本の婦人科腫瘍の診断の精度に問題があります。学会で研究的な議論をする前に、病気の診断の勉強会を頻繁にすべきです。
対策:経験ある癌の専門医であれば、経膣超音波で卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫)に癌が発生しているか分かります。嚢腫の内部に一部充実性部分がある場合は、癌か血液の塊(かさぶた)です。超音波診断でも診断は可能ですが、確認するには造影MRIがベストです。癌であると腫瘍を栄養する血管が豊富で造影剤が入っていきます。かさぶたであると、内部に血管がないので造影剤は入ってきません。造影剤を使用したMRIで 充実部分が染まれば癌です。経験のある医師なら超音波で内膜症か卵巣癌かを鑑別するのは難しくありません。むしろ容易です。超音波検査を受けて、担当医が明確な診断をしていないと感じた場合は、患者サイドから「造影MRI」を御願いして下さい。担当医が検査をしてくれない場合は、2nd opinionとして、他医院の医師を探して受診して下さい。診断の際に、「卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫)です。癌は発生していません」と、説明されたら安心です。要するに、担当医が「癌化の可能性を意識して」診察していると患者様が感じ取れたら安心です。卵巣癌を発生する可能性に触れない場合は、担当医を変更すべきです。卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫)と診断されたら、「卵巣癌は出来ていないですか」と担当医に確認すること。卵巣子宮内膜症(=チョコレート嚢腫)は、全例治療が必要です。治療不要とされた場合も、2nd opinionを受けて下さい。
写真5:卵巣子宮内膜症から発生した卵巣癌のMRI画像: このcaseは、他院で子宮内膜症(チョコレート嚢腫)と診断(誤診)されて腹腔鏡手術を受けた後に、私の勤務先に2nd opinionで受診されました。他院の初回手術前のMRI画像で容易に卵巣癌(矢印の部分が癌)と診断できます。私どもで卵巣癌としての大きい手術を追加して、完治しました。
写真6:典型的な卵巣子宮内膜症の超音波画像
写真7:卵巣子宮内膜症から発生した卵巣癌の超音波画像
写真8:卵巣子宮内膜症から発生した卵巣癌の摘出臓器
写真9:卵巣子宮内膜症から発生した卵巣癌の摘出臓器の割面
写真10:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢腫)から卵巣癌細胞が発生することを病理学的に証明した貴重な写真です。
写真11:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢腫)から卵巣癌が発生することを証明した貴重な病理写真。←の左側が内膜症の細胞、←付近で癌細胞に変化(化生)し、それより右側が卵巣癌細胞です。
写真12:卵巣子宮内膜症(チョコレート嚢腫)から卵巣癌細胞が発生することを病理学的に証明した貴重な写真です。←の左側が内膜症の細胞、←付近で癌に変化(化生)し、それより右側が卵巣癌細胞です。前の写真の拡大画像です。
1) 膣炎:乳酸菌を分解して膣内を酸性に保ち、膣内を守る大切な細菌をLactobacillus菌(発見者の名前を入れてデーデルライン乳酸菌)と言います。膣内を守る兵隊です。この菌は居ないと異常です。抗生物質の内服、過労、睡眠不足、ホルモン異常(Estradiolの低下)、性行為などで膣防衛隊であるLactobacillus菌が減少、または居なくなると、普段居ない様々な菌やカビ類が感染、繁殖します。自覚症状とおりもの(分泌物)を観察すれば直ぐに診断可能ですが、確定診断をするために、分泌物の培養検査を行います(保険適応、4-5日で結果判明).治療を要する代表的な菌は、カンジダ、トリコモナス、ガードネレラ菌、GBSなどです。
2) 子宮頚管炎:原因は大きく感染性のものと非感染性のものに分けられますが、感染性の頚管炎が問題です。原因の多くはクラミジアと淋病で、治療が必要です。卵管不妊の原因となるクラミジアと淋病の抗原(菌)そのものが子宮の入り口(子宮頚管)に感染しているかを調べます(抗原検査)。検査の方法は、内診して子宮頚管を綿棒で擦過します。陽性の場合は本人とpartnerともに抗生物質(ジスロマック、クラリスなど)による治療が必要です。陰性だからといって、クラミジア感染を否定出来ません。クラミジアは性行為で膣から侵入し、子宮頚管->子宮内膜->卵管->お腹の中(腹腔内)と上向性に感染拡大します。クラミジアに感染していても、頚管に菌が存在せず、卵管やお腹の中(腹腔内)に菌が感染している場合もあります。当然、頚管を擦過する抗原検査は陰性になります。この場合、血液検査で抗体を調べることにより感染が確認できます。従って、クラミジア感染の有無は、抗原(内診で子宮頚管を擦過)と抗体(採血)の両方の検査を行う必要があります。
3) 骨盤腹膜炎:細菌が骨盤内の臓器に感染し、その臓器を覆っている腹膜にまで炎症が及ぶ病気のことです。骨盤腹膜炎の主な原因は,性行為による細菌感染、子宮内留置器具具(IUD, Mirena等)の長期留置、開腹術(腹腔鏡手術)後の細菌感染です。特に近年は性行為による細菌感染(クラミジア、淋病)が原因となっているケースが多いです。そのため、性感染症は骨盤腹膜炎の原因として重要です。ここでは、頻度の多いクラミジア骨盤腹膜炎について説明します。最初に炎症(感染)を起こす臓器は子宮頸管(子宮頚管炎)です。次に子宮内膜(子宮の中)->卵管->骨盤内(お腹の中の底の部分)へと上向性に感染が拡大して行き、最終的には骨盤を超えて腹腔内(お腹)全体に炎症が及ぶこともあります。これらの腹腔内臓器は腟を通して外界とつながっているため、細菌感染を起こしやすいという特徴があります。典型的な症状は、激しい下腹部痛、嘔気、嘔吐、便秘、下痢、発熱、不正出血、水様性帯下(水っぽいおりもの)などですが、クラミジア感染症では、骨盤腹膜炎を発症しても腹痛などの自覚症状がない(無症状)か、あるいはあっても直ぐに消失する場合もあり、婦人科受診もせず治療を受けないため、慢性になることも少なくありません。女性が腹痛を訴えて、「ここが痛い」という明確な部位がない、あるいは痛みの部位が変化(移動)する場合、疲れた時だけ腹痛があり、痛みが自然に消失する等の場合、第一にクラミジア感染を疑います。クラミジアは生命には直接関係しませんが、卵管閉鎖や臓器の癒着によって不妊の原因になるので、妊娠希望のある女性にとっては一大事です。血液検査 (クラミジアに対する抗体検査) を行うだけで診断が確定することもあります。あるいは、クラミジアに有効な薬 (クラリス、ジスロマック等)による、治療的診断 (痛みが軽減したらクラミジア感染の可能性あり)も有効な診断方法の一つです。クラミジア骨盤腹膜炎を発症した場合、お腹の色々な部位に痛みが生ずるため、消化器内科を受診することも少なくありません。内科医がクラミジアの可能性を念頭においていないと、中々診断がつかず、CT,MRI,超音波、胃腸の内視鏡検査等で異常を認めず、様子を見ましょうとなる場合も少なくありません。患者様自身が腹痛の原因としてクラミジア感染が多いことを知っておく必要があります。クラミジアは、抗体が出来ても免疫は出来ないため、何度でも感染します。重症化すると右上腹部に炎症が広がり、肝臓の周囲に膿を作る腹膜炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群=入院必要) が発生することもあります。本当にやっかいな病気です。疲れた時に腹痛や腹部膨満感がある、 水様性帯下(水っぽいおりもの)、断続的または継続的な不正出血などの症状がある場合、クラミジアの抗原検査と抗体検査が推奨されます。その他、採血で白血球数検査、超音波、MRI等で、腹腔内に膿瘍が形成されていないか調べる場合もあります。治療の基本は、原因菌に対応する抗生物質の内服や点滴です。原因菌が不明の場合は、クラミジアと淋菌に対する抗生剤が選ばれます。腹膜炎も重症になると入院治療が必要になりますので、早期治療が大切です。クラミジア骨盤腹膜炎は、寛解しても卵管閉塞や臓器の癒着による不妊症や慢性の腹痛(疲労や睡眠不足の際に)、性交痛、腹部膨満感等が後遺症として残る場合があるので、やはり抗生物質による早期治療が大切です。抗生物質内服時の注意事項は、血液中の薬剤濃度を一定にするために、タイマーをかけて服用することす。例えばクラリス 2錠/日 x 14日の場合は、12時間毎(朝8時なら、夜は20時)に時間厳守で内服しないと十分な効果は得られません。抗生物質。ホルモン剤は、このように時間厳守で内服するよう御願い致します。
4) 性器ヘルペス:
● 外陰部から肛門周囲に痛みを伴う水疱ができます。表面が潰瘍性で専門医なら視診で診断可能です。湿疹は通常2-5mmですが、1mm程度の場合、診断がつきにくい場合もあります。原因は単純ヘルペス(HSV: Herpes Simplex Virus)で、1型(HSV-1)と2型(HVS-2)があります。初発の際は痛みや湿疹の広がりなどの症状は強烈です。鼠径部のリンパ節も腫れ、発熱、倦怠感もあります。血液検査をすると白血球が10000を超えることが多いです。再発時は初発時と比べて軽症になります。性器外ヘルペスとして、臀部や乳房(乳輪)にもできます。一度寛解しても(治っても)、疲れたり、睡眠不足などで免疫状態が低下すると再発します。初発時はValtrex 2錠/日を5日服用。痛みが強い場合リリカ 75mgを一日2回内服、めまいなどの副作用が出る場合はロキソニンやボルタレンで疼痛対策をします。そして、大切なことは、禁酒、十分な睡眠と栄養です。必ず寛解します。初発時の注意事項はジェネリック医薬品(バラシクロビル)を服用しないことです。効果が明らかに弱いです。全く効かないこともありました。初発で寛解後は、再発予防にValtrex 1錠/日を 最低1年間は服用します。その後の服用期間に規定はありませんが、欧米のdataから、初発から2年内服が推奨されます。
● 顔面神経麻痺の60%異常を占めるベル麻痺は、単純ヘルペスvirus(HSV)が原因です。Valtrex 2錠/日を5-7日服用。Valtrexの量以外の治療方法や注意事項は、下記のRamsay Hunt症候群と同じです。症状出現から治療開始までの時間で予後が決まります。出来れば症状出現から3-4日以内、遅くても7日以内に治療開始すると寛解率は高いです。一般にRamsay Hunt症候群より、軽症で予後良好です。
5) 帯状疱疹:
● 原因は水痘・帯状疱疹virus(VZV:Varicella Zoster Virus)。初感染時には水ぼうそうを発症し、その後virusが神経節に潜伏します。再発時は帯状疱疹を発症。主に顔面、頭部、胸背部から腹部、下肢などに発症しますが、感覚神経の存在する全身どこにでも発症します。皮膚の疼痛、違和感といった初期症状に続き、赤い発疹、水疱が出現します。但し、痛みがある場合、湿疹がなくても帯状疱疹の場合があることを知っておく必要があります(無疱疹性帯状疱疹).治療はValtrex 6錠/日を7日内服です。再発予防の場合と異なり、初期治療では、ジェネリック医薬品は使用しない方が良いです。会社によって効果が異なります。7日服用後は、Valtrex 1錠/日を半年から1-2年内服して、再発を予防します。
● 顔面神経麻痺の20%を占めるRamsay Hunt症候群は水痘・帯状疱疹virus(VZV)の再活性化により発症します。疲れ、睡眠不足、ストレス等で免疫が落ちると、おとなしくしていたvirusが暴れだし神経を障害します。顔面神経麻痺はvirusが顔の神経を襲ってくる病気です。注意すべき事は、痛み(耳の周囲が痛い)だけで、ヘルペスに特徴的な湿疹が出ない場合が多いことです。帯状疱疹の場合と同様にValtrex 6錠/日を7-14日内服。これにPrednisoloneを60mg (朝30mg, 昼30mg)x 3日、40mg (朝20mg, 昼20mg) x 3日, 30m (朝15 mg, 昼15mg)x 3日、20mg(朝10mg, 昼10mg) x 3日、10mg (朝5 mg, 昼5 mg)x 3日、5 mg(朝5 mg)x 3日という方法で内服します。顔面神経麻痺のため、まぶたが閉じなくなり、涙も排泄されなくなるためdry eyeの状態になります。症状出現時には、目にゴミが入ったかのような痛みを感じます。この時点では、顔面神経麻痺に気付く人は少ないです。目を洗浄しても改善しません。それどころか、洗浄すると痛みは増強します。他の人から、瞬きしても片目が閉じないことを指摘され、顔面神経麻痺に気付くことが多いようです。このdry eyeに対しては、ヒアレイン点眼薬0.1% (0.3%は粘張性が強く不適切)を10回/日以上点眼する。仕事中はdry eye予防にゴーグル(内側を濡らす)を使用。睡眠時はニチバン メパッチクリア M 30シート(Amazonで購入可能)を使用する。症状出現してから一日でも早く、ValtrexとPrednisoloneを内服することが寛解するか否かの決め手になります。出来れば3-4日以内、遅くても7日以内に治療開始すれば寛解率は高いです。Valtrex 6錠/日を 7-14日内服後は、Valtrex 1錠/日を再発予防に6か月から1-2年間は内服します。この2剤以外には、メチコバール500mg:3錠/日、アデホス60mg 3錠/日、カルナクリン50mg 3錠/日を治療開始から1-6か月間内服した方が良いです。
1)月経異常(生理不順):「正常な月経の範囲外にある状態」をいいます。一般的に正常の月経周期は25~38日、持続日数は3~7日、月経時の血液量の正常な範囲は20~150mlと言われています。月経異常(生理不順)は、月経と次の月経までの期間(周期)の乱れ(期間が長い、短い、不規則)、月経の持続期間(短すぎる、長引く)、月経の量(少ない、多い)、月経血に固まり(凝塊)が含まれているか、月経の始まり方の異常(出始めがじれったい)、終わり方の異常(切れが悪い)等、色々なpatternがあります。
【頻発月経】前回の月経から24日以内に次の月経が始まる性周期
【稀発月経】39日以上たっても次の月経が始まらない状態
【無月経】3ヵ月以上月経がない状態
【閉経】最終月経から1年以上月経が来なくなった状態を閉経といいます。日本人女性の閉経年齢は45~55歳が普通です。40歳未満の閉経は早発閉経と診断され、骨粗鬆予防、冠動脈疾患、動脈硬化予防のためにホルモン補充療法(HRT)が必要です。一方、55歳以上になっても月経周期がある女性では、乳癌のriskが高くなります。
2) 多嚢胞卵巣:女性が男性と同様に仕事をするようになった1990年代から急増しています。先天性(遺伝)、継続的なstress, 夜更かし、体脂肪の増加などが原因です。3か月以上月経が来ない場合、子宮内膜が剥げ落ちないので、若くても子宮内膜癌(体癌)発症のriskが出てきます。最近10年間で24歳~35歳の子宮内膜癌症例が5例あります。無月経が2か月以上続く場合は、子宮内膜癌予防目的で低用量pillを内服して毎月子宮内膜を剥がす事が大切です。多嚢胞卵巣の状態であると、単純に年間の排卵回数(5-9回/年)が正常女性(13回/年)にくらべ、4~8回少ないため、性行のタイミングがとりにくく、妊娠出来る確率が下がりますが、基礎体温を測りながら経験的にタイミングを予測する、排卵誘発剤を使用する等で、大がかりな不妊治療をしなくても、普通に妊娠可能ですから、心配し過ぎないようにして下さい。通常は妊娠希望の時期の直前まで低用量pillを服用し、最後の1錠を服用して7日目にtryすると妊娠の確率が高いです。これで成功しない場合、その次から自分の周期に戻るため、timingを細かに見ていくか、排卵誘発剤を使用するか、年齢を考慮しながら方針を決めていくことになります。多少苦労(苦戦)するかも知れませんが、当院に於いて妊娠希望のある多嚢胞卵巣患者様で最終的に妊娠出来なかったcaseはありません。
3) 更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)
Hot flash(ひどくなると熟睡している夜中に汗をかいて目覚める)、情緒不安定、鬱(うつ)、等の症状が出ても更年期障害とは限りません。甲状腺疾患、の場合もあります。自身で判断するのでは無く、脳下垂体―卵巣系のホルモンと甲状腺ホルモンなどを採血して、脳下垂体系FSHが61 mlU/mL以上に上昇(因みにFSH:0-20:若い、21-60:更年期、61以上: 閉経)、Estradiol=E2が低下(<10 pg/ml)であれば、女性ホルモン欠落症状としてHRTの適応ありと判断できます。E2が40 pg/ml以上あるのに、HRTで女性ホルモン(Estradiol=E2)を投与すると、E2がtoo muchになり(若返り過ぎて)危険です。また、HRTを開始したら、定期的(少なくとも年に一回、出来れば6ヶ月毎)に採血をして、血液中のE2濃度のmonitoringをします。採血の目的は、HRTの安全性checkです。HRTの目的は、hot flash等のつらい更年期症状の改善、骨粗鬆、動脈硬化、冠動脈疾患の予防にあります。そのための必要最小限の女性ホルモン(Estradiol=E2)の濃度になっているか(適正なホルモン濃度であるか)の判定をします。「若返り過ぎていないか」確認します。60歳の女性がHRTを受けて20歳になったのでは危険です。せいぜい40代に戻しましょう、という感じです。若返り過ぎると、乳癌などホルモン関連疾患を発症することになります。HRTを始める前に、E2が10 pg/ml以下である事を確認する。HRTを開始したら、定期的(少なくとも1年に一度、出来れば6か月毎)に採血して、若返り過ぎていないか、丁度良いか、あるいは不十分か確認する。またEstradiol=E2投与の合併症である血栓が無い事の確認も必要です。採血を受ける時期は、真夏(7-8月)か真冬(12-2月)がお勧めです。血栓は夏と冬に多いからです。夏か冬に血栓の検査が異常なければ、一年中安心です。
いわゆる人間ドックで行われる血液検査の必須項目は、血算 (白血球、ヘモグロビン,血小板数)、肝腎機能、脂質(コレステロール)、糖尿病検査です。これらの検査も大切ですが、もっと切実で直接生命に関わる検査項目は、癌を見つける腫瘍マーカー、血栓マーカー (心筋梗塞、脳梗塞、肺梗塞の予知マーカー)、心不全マーカー(突然死の予知マーカー)です。これらの検査こそ、人間ドックの必須項目にすべきです。ところが、日本の多くのドックに於いて、腫瘍マーカー (多くの場合3-5項目)と心不全マーカーはOptionにされており、必須項目に含まれていません。そして血栓マーカー (d-dimer) に至ってはoptionにもなっていません(受けることが出来ません)。生命に関わる、癌、心不全、血栓が必須項目になっていないのでは、人間ドックを受けても安心感が得られないということになります。そこで、当院では、これら生命に関わる3項目を血液ドックとして行っております。
更に、最近急増している膵臓癌のrisk検査も開始しました。膵臓癌は2016年女性の癌死因の第6位でした。3年後の2019年の時点では第3位。毎年1ランクずつ上がっています。これまでの上昇率でいくと、2023年には1位になると推定されます。現在婦人科腫瘍全体(子宮頸癌、体癌、卵巣癌、その他全部合計して)での年間死亡数は約10,000人で、女性の膵臓癌死亡者数は約20,000人です。2021年の時点で、女性が膵臓癌で死亡する数は、婦人科癌全体の死亡者数の2倍です。そしてその比率は、増え続けています。正に「非常事態宣言」です。Stage I(腫瘍径<2cm)での5年生存率が45%、即ち早期発見されても全員は助からない癌です。最早、他の癌のように早期癌を発見するための癌検診だけでは安心できません。どうすれば良いか。対策は危険因子を見出してその因子を排除して膵臓癌を予防するしかありません。危険因子は、riskの高い順に1) 慢性膵炎(多くは無症状):健常人の13倍危険、2)家族性 (遺伝):7倍危険、3) 膵嚢胞(IPMN含む):3倍危険、4)肥満:2.8倍危険、5) 糖尿病II型:2倍危険、6) 喫煙:1.7倍危険、7) 過度の飲酒 (Beer:900ml以上、Wine:グラス3杯以上は危険):1.2倍危険、などです。膵炎が最も危険であることが分かります。
肥満は自分で分かるので、自己管理を御願いします(白米、白いパンを食べない。茶色い米、ライ麦パンを食べる)。糖尿病も会社や自治体検診でHbA1Cを調べてもらえるので確認し、異常であれば管理して下さい。急性膵炎は腹部から背中にかけての激痛があります。慢性では、無症状、症状があっても生活に支障が無く、本人が気づかないこともあります。採血で膵臓から分泌される3種類の酵素(膵アミラーゼ、膵PLA2, リパーゼ)を調べることで潜在的な膵炎を見つけ出す事が出来ます。2022/10から測定開始しましたが、5-6人に一人陽性者が検出され、あまりの多さに驚いています。膵酵素上昇例では、先ず膵臓癌の超早期(Stage 0期)の発見に真剣に取り組んでいるAIC八重洲クリニックでMR-CP (Magnetic Resonance Cholangio-Pancreatography:膵臓疾患に特化したMRI)を受けて頂き、膵嚢胞、膵IPMN,主膵管拡張の有無等を詳しく診断してもらいます (保険適応です)。その結果で、膵臓癌専門医を紹介するか、AIC八重洲クリニックでfollow upするか決定します。無症状の時点で厳重管理し、膵臓癌を予防することは不可能ではありません。35歳以上の方は全員、また家系に膵疾患がある場合は40再未満でも、膵癌危険因子検出の血液検査をお勧めします。膵酵素の測定(血液検査)以外に、長鎖脂肪酸(健康な状態から膵臓癌に移項する段階で減少する脂肪酸のこと)を測定することにより膵臓がんのリスクを判別する「Prodrome-PAC」という検査(血液検査)もあります。膵酵素の異常が検出された方、及び家族歴、糖尿病、Heavy drinker等、現時点で膵臓癌のriskの高い方は、膵酵素検査に加え、「Prodrome-PAC」検査も受けられた方が良いと思います。
婦人科疾患で手術が必要になった場合、また婦人科以外の疾患 (特に生命に関わる癌、心臓病等)にかかった場合、名医を直接紹介しております。病院宛の紹介状だと、どの医師が診察、治療、手術するか不明です。日本では病院ランキングというものがありますが、参考にしかなりません。治療(手術)をするのは病院ではなく、医師です。当院からは、本人の希望がない限り、病院への紹介状は書きません。信頼できる名医を直接紹介します。
医療制度の問題で基本的に自費診療とされています。保健医療制度上、患者様が入院中の場合、医療保険証は他施設で同時に使用できないようになっています(厚生労働省)。入院中でない場合、話だけ聞く自費診療の2nd opinionよりも、通常の診察を保険診療で受けられる方が良いと思います。当院ではご本人が来院された場合 (入院中の外出は不可)、自費診療にするか、保険診療にするかを相談させて頂いた上で2nd opinion的診療を行っております。
●良性腫瘍:特に子宮筋腫、卵巣子宮内膜症の2疾患は2nd opinionを受けられる事を推奨します。日本では、不要な手術(over treatment)が多過ぎると感じております。例えば50歳前後で子宮筋腫に対する子宮全摘は基本的に不要です。閉経すると筋腫は縮小し(消失はしませんが)、筋腫で困ることは無くなるからです。また、卵巣子宮内膜症も、子宮筋腫と同様に, 本来ホルモン療法が主たる治療法です。手術では完治しません。必要性があって、手術をした場合でも、術後に女性Hormoneを減らすか無しにする治療が必要です。また、手術 (腹腔鏡下嚢胞切除等)を行うと、お腹の中に癒着が必ず起こります。内膜症で元々腹腔内(骨盤内)は、大腸、卵巣、卵管等の臓器が周囲の腹膜や膀胱などに癒着しています。手術で癒着を剥がしても、また癒着しますし、手術を繰り返すたびに癒着の範囲が広がっていきます。腹腔内(骨盤内)の癒着は、生涯にわたり、腸閉塞、便秘、慢性の腹痛等を引き起こす原因となります。特に高齢になってからの腸閉塞は致命的です。卵巣癌が強く疑われる等、明確な適応 (必要性)が無い限り、手術は避けたほうが良いです。時間はかかりますが、ホルモン療法 (LH-RH agonist:ゾラデックス、リュープリンなど、LH-RH antagonist:レルミナ錠, 黄体ホルモン療法:ディナゲスト、低容量pill)で管理可能です。手術すること無く、根治も可能です。
●悪性腫瘍:子宮頸癌、子宮内膜癌 (体癌)、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌、腹膜偽粘液腫、膣癌、外陰癌等が対象です。重要ポイントは、「腫瘍の性質と進行期」、「抗癌剤」、そして「術者」です。
(1) 腫瘍の性質と進行期: 性質とは「たちの悪さ」です。組織型と分化度で決まります。子宮頸癌を例にとると、組織型が、扁平上皮癌と腺癌では全く性質が異なります。腺癌の方がより悪性度が高いです。更に、扁平上皮癌でも、腺癌でも、分化度 (どのくらい正常細胞からからかけ離れた細胞になっているか) により、抗癌剤の感受性、進行速度 (再発しやすいか、または再発までの時間)も異なります。分化度(Grade)は1-3に分類されます。Grade 1が一番おとなしく(治りやすい)、Grade 3は進行が早く(抗癌剤の効果持続期間が短い) 再発しやすく、厳重管理が必要です。治療後の通院期間も、Grade 1が3-6ヶ月毎とすると、Grade 3なら、治療後しばらくは毎月通院が必要です。
進行期はstageとして表現されます。Stage I, II, III, IV期と4段階に分類されます。Stage I:腫瘍が発生部位に留まっている状態、stage IIは原発巣からはみだして、周囲に浸潤進行している状態ですが、骨盤内や腹腔内の広い空間までは浸潤、転移していない。 stage IIIは、臓器が存在するスペース (骨盤~腹腔内)に広がっている状態、stage IVは全身転移している状態です。頸癌を例にすると、Stage II-IV、またstage Iでも腫瘍径>3~4 cm以上の場合は、手術や放射線のように、局所療法で完治させることは困難です。手術では臓器を摘出します。その際に臓器につながっている血管を結紮(しばって)、切除します。手術後に摘出臓器周辺に癌組織が残存している場合、血流が低下しているために、投与された抗癌剤は癌組織に届かなくなります。進行癌Stage II-IVやStage Iでも病巣が大きい (腫瘍径 > 3~4cm) 場合は、Cisplatinを含む抗癌剤治療を手術前に行い、腫瘍を縮小あるいは肉眼的に消失させてから根治手術を行う方が治療効果は大きいです (術前化学療法->根治術)。抗癌剤を2回 (2クール)投与して有効性が確認されたら、4-6回 (出来れば5-6回) 投与した後に、根治手術を行う。根治術のポイントは、術前化学療法が著効して肉眼的に腫瘍が消失した場合でも、原発臓器周囲の腹膜を広範囲に拡大切除することと、領域リンパ節の徹底した郭清です。
●既に一通りの治療(手術、化学療法、放射線療法など)が終了した後の残存病巣に対する治療も皆無ではありません。使用した抗癌剤の使い方も工夫すると効果が得られる場合もあります。残存した病巣が1カ所か、複数か、またある程度の範囲内にとどまっている(限局性)か、全身に広がっているかを画像診断 (MRI-DWI+高性能CT) で正確に診断する必要があります。癌の広がりで治療戦略が異なるからです。通常の治療が全て終了した後に、残存している腫瘍に対する治療は、まず「投与法を工夫した化学療法」です。これに分子標的薬等を併用する場合もあります。そして有効性が確認出来た場合、病巣が1カ所または、数カ所に限定(局在)している場合、手術も不可能ではありません。医学は進歩しています。簡単に諦めない事が大切です。
(2) 抗癌剤:婦人科腫瘍は、ほとんどのタイプで抗癌剤が有効です。良く効きます。腫瘍を残すような不完全手術後でも、抗癌剤で残存癌組織が完全に消滅する事も稀ではありません。問題はどの薬(薬剤選択)をどのように使用するか(投与法)です。同じ薬であっても使用方法によっては、十分な効果が得られません。治療の鍵は「プラチナ製剤(Platin)」です。Platinには、数種類あります。主に使用されているplatinは、Cisplatinと Carboplatinです。日本では米国GOGのdataに基づいて、Carboplatinが多くの施設で使用されていますが、推奨出来ません。
癌に対する効果は、Cisplatinが100%とすると、Carboplatinは70%位です (効くけれども癌が消え切らない、という状態が多い)。効果も投与法、投与量によって異なるので、細かい管理が必要です。抗癌剤は単独ではなく、他剤と併用される場合が多いです。他の薬の効果はCisplatinに比べると小さいです。実は、多剤併用してもCisplatin単独の成績を上回るdataは得られていません。併用化学療法を行う場合、副作用対策としてCisplatinの投与量が減るようでは本末転倒です。
●癌治療は0点か100点しかありません。子宮頸癌、子宮内膜癌 (体癌)、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌、膣癌、外陰癌に対する化学療法に於いて、鍵を握るのはCisplatinです。Carboplatinではありません。Cisplatinの投与法を工夫して、一定期間(1クール:3-4 週間)にどれだけ沢山投与出来るかが大切です。 Cisplatin:60-70 mg/m2 (体表面積)/3-4週 程度を維持して5-6 クール投与出来れば、十分効果が得られます。Cisplatinが効かない例外があります。組織型が、明細胞、粘液性の卵巣癌と子宮内膜癌(体癌)、子宮頸癌および腹膜偽粘液腫です。1990年代から研究が続いていますが、未だ有効な薬剤は開発されていません。私が癌研大塚病院時代に研究して有効性が見いだされた薬剤はCPT-11, MMC, 5-FUなどですが、Cisplatin程の効果は得られていません。緊急の研究課題です。
(3) 術者:手術先行型治療でも、抗癌剤治療後であっても、「何処の病院」ではなく「誰」が、手術を行うかで運命(予後)が決まると言っても過言ではありません。例えば、子宮頸癌に対する、「広範子宮全摘術」という術式でも、誰が行うかで術式自体がちゃんとした「広範」になってない場合もあります。またその際に行う「リンパ節郭清」も術者の技術が未熟だとリンパ節が十分にとれてない(郭清されていない)こともあります。手術はやり直しができません。術者選びは、極めて重要です。
●前癌状態の高度異形成に対する「円錐切除術」も誰が行うかで成功率も合併症 (術中、術後の大量出血、子宮頚管狭窄症または閉鎖)も大きく異なります。他院で「円錐切除は簡単ですよ」「誰がやっても同じですよ」という説明を受けたと患者様から聞くことがよくあります。異形成の説明の欄で記載したように、婦人科では、ある意味、最も難しい手術です。第一に、何処まで (何mm) 切れば、治るのか世界中のどの医師も分かりません。あくまでも経験に基づく手術です。開腹や腹腔鏡下で、子宮や卵巣を摘出する手術は「摘出するだけ」ですから、医師にとって「やりやすい手術」です。円錐切除は、「残す手術」です。切りすぎると「早産になる」。一方、残しすぎると「異形成もHPVも取り切れない」。患者様からの要求は、「ちゃんと悪いところを取り切って下さい。でも、早産になったら困るので取り過ぎないで下さい」です。何処まで切れば、異形成もHPVも取れるのか分からない状態で手術は行われます。婦人科で最も難しい手術です。円錐切除こそ、経験ある医師を選ぶことが大切です。良性腫瘍でも同じです。医師選びは大変な作業です。早く手術をするのではなく、多少時間をかけてもbest Surgeonを探すことが大切です。繰り返しますが、手術はやり直しがききません。
以下に各疾患の説明をします。ここからが各病気(疾患)の説明
子宮頚部異形成 (および子宮頚上皮内癌):
当院が最も力を入れている疾患です。
後で詳細を記していますが、読むのが大変という人のために要点を先にまとめます。
[I]子宮頚部異形成の要点(まとめ)
1.異形成とは:子宮頚部から膣にHPV (Human Papilloma Virus)が感染して、正常細胞が変化した状態。
2.異形成自体は病気として捉える必要はない。異形成があっても、一生涯困ることは何もない。
3.異形成で大切なことは 、将来癌化するかどうかという1点のみ。
4.癌化するかは、感染しているHPVの型で決まる。従って、HPVの型を正確に調べる必要がある。
5.異形成の3要素は、HPVの型、異形成の程度(高度、中等度、軽度)、異形成の範囲(≦ HPVの感染範囲)。これら3要素の内、癌化するかを決めるHPVの型が最も重要。その次に、異形成の範囲(≦HPVの感染範囲)が重要。
6.HPVの型は100種類以上報告されている。種類が多いので、名前は基本的に数字で表現する。癌の原因となるHigh risk HPVの型は15種類あるが、riskによりさらに、3つのグループに分類可能。Worst type HPV(最悪の型) は16,18 (16は咽頭癌、肺腺癌、食道癌、舌癌、肛門癌の原因でもあり、全身管理が必要。18は頸部腺癌という質の悪い癌の原因)、第2グループ(16,18に次いで危険な型)は, 31,52,58,45,33,82,35の7種類, 第3グループ(High riskだが、比較的おとなしい型)は39,51,56,59,66,68です。当院での13年間の追跡データから、worst type 16,18と第2グループの7種類が本当に危険な型と考えられ、これら9種類のHPV感染した場合、厳重管理をして、早く治す (HPVの駆除=除菌する)必要があります。
7.異形成の管理 (診断と治療のための通院間隔等)は、HPVの型と異形成の範囲と程度(高度、中等度、軽度)で決まる。
8.異形成が治るとは、どういう事か。どうなったら治ったと言えるのか。細胞診の結果がNILM(異常なし)であっても、正常とは限りません。細胞診の精度は低いです。異形成であっても(HPVが感染していても)、半数以上で、細胞診がNILMと診断(誤診)されます。NILMの結果では安心できません。異形成が治るとは、「HPVが駆除(除菌)される」ということです。即ち、HPV (特にhigh risk HPV)の陰性化が寛解(治る) の必須条件です。HPVが除菌された後でも、希に中等度~高度異形成、あるいは癌化することもあるので、HPVの陰性化=完治という表現は使用しません。あくまでも「寛解」と言います。組織診で異形成と診断され、治療 (繰り返し治療的組織診, 子宮膣部~頸部蒸散術, 頸部円錐切除術等)を行った後に寛解した(治った)場合の検査結果は、HPV 陰性(特にhigh risk HPVが駆除(除菌)、細胞診が「NILM」, 組織診が「軽度異形成の疑い」 (Mild dysplasia,suspected またはkoilocytotic change alone=非活動性異形成)または「Cervicitis」 (慢性頸管炎)」です。
9.異形成を治す (寛解させる)治療法
10.円錐切除の効果判定:表に記載されたとおりです。寛解の条件は、異形成が取り切れること (切除断端陰性)と、原因HPVの陰性化 (特にHigh risk HPVが駆除されること)です。日本の殆どの病院 (医院)に於いて、効果判定は「異形成が取り切れたか(断端陰性)」のみで行われており、術後HPV検査 (HPV 陰性化の確認)は行われていません。術後HPV検査(HPV陰性化の確認)は絶対に必要です。今後全国で術後にHPVも駆除(除菌)できたか調べる検査が行われ、術後も安心できるようになることを祈るばかりです。
11.高度異形成は、全例(絶対)円錐切除が必要か:答えはNoです。HPVの型が16,18はすべきでしょう。それ以外のhigh riskの型が原因の場合、異形成(HPV感染)の範囲が狭いと、治療的組織診で寛解する可能性があります (1-2年での寛解率=円錐切除をしないで済む率は50-60%前後)。治療的組織診で治らない場合は、やむを得ず円錐切除を受けることになります。High risk型でも、39, 51,56, 59, 66, 68型が原因の場合、治療的組織診で円錐切除を回避出来る確率が高いです(60 %以上)。他院で円錐切除必要と診断され、当院に受診された患者様の50%以上は円錐切除回避に成功しています(5年以上追跡data)。
12.円錐切除はなるべく回避したい-----円錐切除の合併症
主な合併症は、「術中術後出血」と「子宮頚管狭窄または閉鎖」の2つです。
図1: 異形成とは
表1:異形成とは
表2:異形成の3要素
表3: 当院で行われているHPV検査:型と癌化のriskとの関係
表4:異形成 初診時の検査内容
表5:異形成寛解の条件
表6:異形成の治療方法(下に行くほど、大きい治療)
表7:円錐切除の効果判定
表8:円錐切除の後遺症:子宮頚管狭窄または閉鎖がおこる原因
これから、異形成、HPVに関して詳細を説明致します。
異形成の原因のHPVを含めてVirus, HPV vaccineに関しては、用語説明欄を参考にして頂ければ有り難いです。
さて、ここから異形成の詳細な説明を致します。
[I] 異形成の概要: 異形成とは何か説明します。(異形成 図1, 表1)
以上、異形成は子宮頚部の扁平上皮(手前側)と腺上皮(奥の方)の境の基底膜の細胞にHPVが感染した状態です。異形成の状態になっていても、生活には支障ありません。心配することはただ一つ、「癌化するか否か」に尽きます。癌化するかは、HPVの型で決まります。最も大切な事は、どのタイプ(型)のHPVに感染しているかを正確に(詳しく) 調べる事です。
[II] 異形成の3要素(異形成 表2,3)
1.HPVの型 (最も重要)
2.異形成の質 (軽度、中等度、高度)
3.異形成の量 (範囲)
異形成の管理で最も大切な事は、「癌化するか否か」に尽きます。癌化するかは、HPVの型で決まるので、3要素の中で「HPVの型」が最も大切です。その次に大切な事は、コルポスコープで見える異形成の範囲(表面的な拡がり)です。異形成は立体的に拡がっていきます。範囲が狭い程深さは浅く、範囲が広い程深いです。例え、高度異形成でも範囲が狭ければ、治療的組織診 (コルポスコピーで確認された病巣を出来るだけ多く切除する)で高度異形成病巣も摘出され、原因HPVも駆除(除菌)可能で、円錐切除しないで治すことが可能です。そして三番目が、異形成の質的診断です。多くの病院では、これのみを指標として管理していますが、それでは不十分です。厳重な管理のためにはHPVの型を先ず正確に判定することが最も大切です。
4.備考:半分余談になりますが、 異形成の質 (軽度、中等度、高度)について、「質的診断」としていますが、実は軽度―中等度-高度の違いの説明は、基底膜の上 (外側)にある上皮の内、異形成が下1/3を占める場合は軽度異形成 (CIN I)、2/3を占める場合は中等度異形成(CIN II)、全部(3/3)を占める場合は高度異形成 (CIN III)とされています。実際殆どの医師がこのように説明しています。この説明が本当だとすると、軽度、中等度 、高度は「質の違い」ではなく、「量 (深さ、厚さ) の違い」ということになります。軽度も高度も同じ「異形細胞」であり、量の違いという説明になっています。高度がより癌に近い性質(遺伝情報)を持っているとは限らないとも考えられます。異形成は癌のような増殖性もなく、また転移することはありません。組織診という小さな手術で、上皮内の異形成の量を減らして、高度を軽度にすることは不可能ではありません。また、異形成の病巣内にHPVは存在しているので、繰り返し組織診で異形成の量も減らして、HPVの駆除(除菌)も100%ではありませんが、可能です。従って、高度異形成の診断のみで、早産のriskが高まり、また生涯に及ぶ子宮頚管狭窄(あるいは閉鎖)のriskを伴う円錐切除を100%行うという日本のガイドラインは必ずしも正しくないと考えられます。当院では、HPVの型、異形成の範囲、および繰り返し治療的組織診の経過に基づいて、手術適応を慎重に判断しています。その結果、高度異形成 (CIN III)、の約半数は円錐切除することなく完解させています(治っています)。日本のガイドラインは、将来HPVの型を考慮して円錐切除の適応が決まるように変更されると思います。
最近、high risk HPV感染の異形成で、中等度異形成(CIN II)という中途半端な状態が続いた場合、p16, ki-67タンパクの免疫染色という特殊な検査を行い、癌化しやすい異形成 (腫瘍性異形成)か、癌化しにくい異形成(反応性異形成)かを鑑別診断することが可能になりました。腫瘍性なら拡大蒸散術や円錐切除を行い、反応性なら行わないで良いという判断が可能です。まだ、研究段階です。
[III] 「異形成が治る」とはどういうことか (異形成完解の条件) 表5
「治療的組織診」で異形成を治す!! 当院では、本来診断を目的とする組織診を治療的に行う事で、円錐切除などの手術をしないで治すことを目標にしています。異形成が治るとはどういう事か。それは異形成(および子宮頚癌)の原因であるHPVを駆除 (除菌)すること。HPVが陰性化する事です。通院中に細胞診が異常なし (NILM)になっても、HPV (特にhigh risk HPV)が残っていたら治ったことにはなりません。当院の13年以上に及ぶfollow up data (同じ患者様の追跡調査) の解析から, 一度検査で検出されたHPVが自然消滅することは、ほぼありません。子宮頚部の上皮 (表面) にHPVがついていて (ごみがついているように)、洗えば流れ出るようなものと考える人がいますが、間違いです。HPVは子宮膣部から頚部にある扁平上皮と腺上皮の境界部分 (S-C junction) の上皮 (表面)から2-3 mmの深さのところにある基底膜の細胞に感染し、時間をかけてゆっくりと感染拡大します。その部分を治療的組織診 (またはレーザー/高周波電気メスによる蒸散、円錐切除等)で切除 (除去)すると、HPVを駆除(=除菌)することが可能です 。但し、HPV駆除 (除菌)率は100%ではありません。例え子宮全摘をしてもHPVを100% 駆除 (除菌)ことは不可能です。現時点でHPVを100%駆除 (除菌)する方法はありません。因みに当院での治療的組織診でのHPV駆除 (除菌)率は、2-3ケ月毎に通院した場合、1年で約60-70%、2年で約70-80%前後です。最終的には100名の内10名前後は、いかなる治療(子宮全摘含む)を行っても、駆除 (除菌)出来ません。子宮全摘してもHPVが残存しているということは、膣まで感染拡大しているということです。
いかにして早くHigh risk HPVを駆除 (除菌)するかが、異形成の管理(治療)で最も大切な事です。当院では、先ずは治療的組織診で異形成を治すことを第一目標にしております。何故なら、組織診は、一度に沢山採っても、また2-3ケ月毎に繰り返し採っても、子宮は短くなりません。一回の組織診でどんなに沢山採取しても、10日前後で元の子宮の長さに戻り、形も変形することはありません。手術をした場合、治療した部分は元通りにはなりません。レーザーや高周波電気メスによる蒸散術 (子宮膣部から頚部を焼き切る)では、子宮頚部 (元々は3-3.5cmあります)が、約3-5 mm短くなります。またより治療範囲の大きい円錐切除では、術者によりますが、5-15mm短くなります。従って、治療的組織診でHPVを駆除 (除菌)出来ることが患者様にとってベストです。
ここでお断りすることがあります。胃がんの原因のピロリ菌は「細菌(生き物)」ですから、「駆除」する場合「除菌」は正しい表現です。一方、HPVは「virus (ウイルス)」であり、「細菌(生き物)」ではありませんから、「駆除」は正しい表現ですが、「除菌」は正しい使い方ではありません。ただ、患者様へ説明する場合「除菌」という方が分かりやすいとのことで、ここでは「HPVの駆除」=「HPVの除菌」という表現を使用させて頂きます。」
[IV] 異形成の発見---どうやって、自分の異形成を早く見つけるか
1.健診 (自治体や会社の健診):多くの施設で子宮頚部 (膣部から頚部)擦過細胞診のみしか行われないので、真の検出率は低いです。健診結果がNILMの場合「異常なし」と判断されますが、本当に「異常なし」とは限りません。異形成がないかは不明です。即ち、NILMの結果だけでは安心できません。細胞診の項で説明したように、HPV感染者 (異形成)の半数以上はNILM(正常)と診断されます。健診では頚部細胞診だけでなく、HPV検査 (HPVの型を特定できない簡易型でも十分有効=費用は1000-2000円程度)を併用すべきです。自治体の健診体制を変更するのは容易ではありません。日本という国は、明らかに間違っている、あるいは時代に即していないような事でも、改善しようとすると、大変なエネルギーと時間がかかります。大事な事よりも大事でない事の方が優先される「超後進国」です。基本的な文化や考え方が2000年前と変化していません。健診体制が改善されるのを待つよりも、自分で考えて正しい検査を受けないと命取りになることもあります。自分の健康(命)は自分で守る。国や自治体に任せっきりにしない。子宮頚部の健診は、細胞診だけでは不十分。HPVの検査 (簡易型で良いので)が必要です。
上記のように通常の健診 子宮頚部擦過細胞診の精度は高くないですが、NILM以外が検出されたら、細胞診を再検するのではなく、具体的な型が以外が検出されたら、細胞診を再検するのではなく、具体的な型が判明するの検査 (出来れば全ての型がわかる方法)と組織診(コルポスコープで観察しながら行う),それに超音波を受けることが必要です。
2.異形成に無関係な症状で婦人科受診した場合:頸癌や異形成に無関係な事で婦人科受診した際に、ついでに受けた子宮頚部細胞診でひっかかることもあります。結果が異常 (NILM以外)と出たら、むしろluckyと思った方がいいです。とにかく婦人科を受診したら、異形成 (前癌状態)を早期に発見するために最低限の検査:細胞診だけは受けないより受けた方が良いです。勿論細胞診では十分ではないですが、受けないよりましです。
[V]異形成の診断(当院で初診時に行う検査):以下4つの検査が基本です。表4
HPV型別検査 (HPV typing):検査の項目で説明したように、HPVの検査には色々な種類があります。型を1) 調べないと方針が決まらないので、「異形成」と診断がついたら、HPVが感染しているわけですから、その後に 正確な型が決まらない簡易検査(HPV陽性か陰性か)を受ける意味は全くありません。
High risk型13種類のみを調べる検査 (Beckton-Dickinson社製Surepath)は厚生省が認可した保険適応のある検査です。 保険点数 2000点=20,000円、3割負担の場合 本人負担費用は6,000円。保険適応があるので、 日本のどの施設でも検査可能です。但し、この検査には、1) そもそも13種類のHPVの型しか検査できないこと、2) false negative (偽陰性:感染しているのに陰性と判定されること) が少なくないこと、3) 新生児の喉に感染すると、生命にかかわる「呼吸器乳頭腫症」の原因HPV 6,11が検査対象に入っていないこと、等の問題点があり、推奨できません。USA Today Jan 13, 2013: False-negative results found in HPV testingに米国での詳細が記載されています。この検査を希望される場合は、先ず組織診を行い、「軽度または中等度異形成」と診断された後に、HPV-13 (Surepath)を行う事になっており、同日に行うことは出来ません(厚生省の指導)。組織診の結果が「高度異形成」の場合も保険適応外とされています (厚生省指導)。
HPV型判定検査は、異形成の管理の上で最も大切な検査です。当然ですが、日本で検査可能な全ての型を調べる必要があります。当院で検査可能な型は
6,11,16,18,26,31,33,35,39,42,44,45,51,52,53,54,55,56,58,59,61,62,66,68,70,71,73,82,84, 90, CP6108の31種類です。HPVは国際的には、High riskと Low riskに大雑把に二分されていますが、当院では4段階に分類しています。
表に示したように癌化の可能性が高いいわゆる”high risk”型は15種類あります。私が2003年11月から検査を開始してからのdataに基づくと、最も危険なworst type(最悪の型)は16, 18。次にriskが高い(dangerous)のは、31,52,58,45,82,33,35の7種類。high risk型の残り 6種類 (39, 51,56, 59, 66, 68)は, 16,18のような質の良くない特殊型(頸部腺癌、小細胞癌など)を発生することもなく、また短期間で癌化することも希で、ちゃんと通院すれば、あまり怖くない型です。26, 53, 70, 73は国によってはhigh risk型に分類されていますが、当院のdataから、high riskに認定しておりません。Moderate risk (癌化のrisk少しあり)と分類。6, 11, 42, 44, 54, 55, 61, 62, 71, 84, 90, CP6108 型は、Low riskで、癌化のriskはほぼありません。
このように型により癌化のリスクが判明します。これに基づいて、治療(管理)方針が決まります。High risk HPVが検出された場合は、感染HPVを駆除(除菌)するために治療的組織診を2-3ケ月毎に行います。細胞診/組織診の結果から、HPVが除菌できた可能性が出てきた場合(組織診:軽度異形成の疑い、細胞診:NILMの組み合わせが複数回継続した場合)に治癒判定で第二回目のHPV typingを行います。初診から通常は1-2年後です(特別経過良好の場合6-10ヶ月)。HPV型別検査は毎回の診察では行いません。
2) コルポスコピーで観察しながらの組織診:軽度異形成 (CIN I)、中等度異形成(CIN II)、高度異形成 (CIN III)、あるいは頸癌(扁平上皮癌、腺癌)、いずれかの正確な病理診断が決定されます。但し、コルポスコープで正しい病巣を採取しないと誤診につながります。
3) 細胞診:陰性(NILM:異常なし)の場合信頼度は低いですが、NILM以外の結果が出た場合は重要な情報になります。特に扁平上皮系ではASC-H, HSIL、腺上皮系ではAGC, AIS, adenocarcinomaが検出された場合、特に重要な情報となります。細胞診は異常と診断された場合、非常に有用です。
4) 超音波:異形成は肉眼的には見えないので、超音波では確認出来ません。異形成疑いとされた場合でも、診断が困難な子宮頚部腺癌の見落としを防ぐために超音波検査が必要です。また、異形成とは無関係な、子宮の奇形(見逃されていることが少なくありません)、子宮筋腫、卵巣腫瘍、嚢腫(奇形腫は見落としが多いです)の検出のためにも必要です。
これら、特にHPVの型に基づいて、管理(通院)方法が決定されます。
[VI] 異形成の管理 (初診後の通院検査/治療)表6:管理(通院)の目標は原因HPVを駆除(除菌)することです。HPVの型と組織診の結果により管理方法を決めています。
表9:異形成管理のゴールのサイン:細胞診:NILM,組織診「軽度異形成の疑い」
1) Worst type: HPV 16/18 で、高度異形成 (CIN III):直ちに円錐切除。但し、40歳未満で範囲が狭い場合、ご本人が希望されれば、治療的組織診を行うoptionもあります。
2) Worst type: HPV 16/18で中等度―軽度異形成の場合:2-3ヶ月毎の治療的組織診。
3) 16/18以外のHigh risk type :HPV 31,52,58,45,82,33,35 及び39, 51,56, 59, 66, 68で、広範囲な (全周性の) 高度異形成の場合は円錐切除。広範囲でない高度異形成 (膣部の面積の約1/3以下)の場合でも、本人が希望されれば円錐切除。円錐切除を回避したい場合は、2ヶ月毎ごとの治療的組織診
4) 16,18以外のHigh risk type : HPV 31,52,58,45,82,33,35 及び39, 51,56, 59, 66, 68で、中等度―軽度異形成の場合:3ヶ月毎の治療的組織診
5) Moderate risk type: HPV 26, 53, 70, 73:高度異形成 の場合(希です) は2か月の治療的組織診。
6) Moderate risk type: HPV 26, 53, 70, 73:中等度―軽度異形成の場合:3-6ケ月毎の治療的組織診。
7) Low risk type: HPV 6, 11, 42, 44, 54, 55, 61, 62, 71, 84, 90, CP6108 型:高度異形成の場合は先ずありません。もし高度異形成なら、他の型と同様に最初は2ケ月毎に治療的組織診。中等度-軽度に改善したら、3-4ケ月毎に治療的組織診。軽度異形成-軽度異形成疑いになったら、6ケ月毎に治療的組織診。
上記のような管理を行い、細胞診がNILM(異常なし)、組織診が軽度異形成 (CIN I)の疑い (=koilocytotic change alone)という結果が少なくとも2回以上(出来れば3回以上) 継続したら、寛解したか判定します。2回目のHPV typingです。これで、High risk HPVが駆除(除菌)=陰性化したら、寛解です。通常は最短で1年前後(6-10ヶ月の場合もある)、2-3年以上経った場合は条件を満たさなくても、ご本人と相談の上、効果判定 (HPV typing) を行います。早期の妊娠希望がある場合は、効果判定を早く行う場合もあります。
[VII] 寛解の判定:治ったかどうかの治療効果判定:表9
感染HPV (特にworst type, high risk type) が駆除(除菌)されたらゴール(寛解)です。毎回治療的組織診とHPV typingをすれば、来院回数が少なくてすみますが、HPV typingは検査費用が高いので、HPVが駆除(除菌)できた可能性が出てきた時点で2回目のHPV typingを行います。駆除出来たsignは、細胞診の結果が「NILM(異常なし)」, 組織診が「軽度異形成疑い」(Mild dysplasia,suspected, またはKoilocytotic change alone)です。これが連続して3回以上 継続した場合に、HPV typingを行うと90%以上の確率でHigh risk HPVが駆除(除菌)=陰性化しています。 陰性化後は、6ケ月後に細胞診/組織診を行います。この結果が、問題なし(細胞診:NILM、組織診:軽度異形成疑い)、であればその後は1年毎5年間follow upとしています。
[VIII] HPV陰性化したら、癌のriskは直ちにゼロ(無し)になるのか
これはよくある質問です。答えはNoです。High risk HPVが陰性化しても、癌のriskは直ちにゼロにはなりません。勿論、High risk HPVが持続する(陰性化しない) 場合に比べ、癌化のriskは低下します。陰性化したら、直ちにriskがゼロになるのではなく、年月を経て次第に低下していくと考えられます。
High risk HPV消失後に、一旦改善した異形成(軽度異形成疑い=非活動性)が中等度や高度異形成 になる事もあります。通院間隔が3-5年空くと、稀に癌が発生することもあります。胃がんの原因のピロリ菌の場合も同じです。ピロリ除菌後に胃癌が発生することもあります。理解し難い場合、タバコを例にとると分かり易いです。例えば、20歳から30歳まで喫煙していて、本日禁煙したとします。これで明日から肺がんにならないと思われますか?そんなことはあり得ないですよね。禁煙して5年後に肺癌を発症したら、やはり10年も喫煙していたからだと考えるのではないでしょうか。HPV、ピロリの陰性化も、禁煙も、陰性化後あるいは禁煙後に、癌化のriskは突然無になるのではなく、時間の経過とともに低下して行きます。また癌発症のriskは、HPV, ピロリ菌なら、感染期間 (特定は困難ですが) が長い程、タバコなら一日の本数 X喫煙期間 (これは本人が分かります) の数値が高い程、癌化のriskは高くなり、HPV、ピロリ菌が陰性化後、禁煙後の癌化のriskが継続する期間も長くなります。一方、HPV, ピロリ菌が陰性化後、タバコなら禁煙後、何年経ったら癌のriskから解放されるのか? これを答えられる医師はいません。但し、当院のdataから、high risk HPV陰性化後、再び異形成が進行して中等度や高度異形成 、稀に頸癌になるというevent (事件)は、陰性化後5年以内に起こっています。 従って、当院では、High risk HPV陰性化後、5年間は年に一度受診して細胞診/組織診で管理しています。最終診断がbestの結果(細胞診:NILM, 組織診:軽度異形成疑い、またはkoilocytotic change alone)であれば、5年で管理終了とします。その後の健診(検診)はご本人と相談して決めております。
[IX] 当院における異形成の手術について:表7
円錐切除を行わないで蒸散 (焼き切る)だけの手術と、蒸散に加えて円錐切除を行う2通りの方法があります。「複数組織診+拡大蒸散術 (円錐切除無し)」「縮小(頚管5 mm切除)円錐切除+拡大蒸散術」と「標準的(頚管7-8mm 切除)円錐切除+拡大蒸散術」です。全て日帰り手術です。
1) 複数組織診+拡大蒸散術 (円錐切除無し)
2)「縮小円錐切除(頚管5 mm切除)+拡大蒸散術」
3) 標準的円錐切除(頚管7-10mm 切除)+拡大蒸散術:
[X] 円錐切除の合併症:円錐切除はなるべく回避したい:表8
まとめの項に記載したように、手術切除範囲も不明確で、合併症が多く、特に術後長期(生涯)に及ぶ合併症 (後遺症)=「子宮頚管狭窄または閉鎖」を熟知していたら、「簡単な手術」とは言えず、安易に行うべき手術ではありません。円錐切除は婦人科で最も合併症の頻度が高い手術の一つです。また頻度が高いだけで無くやっかいです。主な合併症は、「術中術後出血」と「子宮頚管狭窄または閉鎖」の2つです。
1.術中術後の子宮出血:術中や術後3日以内の出血は医師の手術操作や技術が原因です。医師が適切な手術を行っても術後出血が起こる場合があります。術後2週目からの約10日間です。この頃かさぶたが剥がれて、動脈性に出血することがあります。時には入院治療 (縫合やカテーテルによる血管の塞栓術)が必要な程、大量出血する場合があるので、手術当日からの約28日間は注意 (脈拍が上がるような行為は避ける:入浴、運動、飲酒、辛いものを食べない等)が必要です。但し、子宮出血は術後約1ヶ月で必ず解決しますから、大出血が起きた時点では患者様は狼狽することもあり、合併症としては目立ちますが、必ず解決するという点で後遺症的なものもなく、術後管理さえきちんとすれば大きな問題ではありません。
2.子宮頚管狭窄または閉鎖(子宮口の狭窄または閉鎖):これは本当にやっかいです。術後後遺症として、一生涯つきまといます。私が、安易に円錐切除をしない最大の理由がこの合併症です。円錐切除を受けて半年以内に閉鎖する場合(原因)は、本人の体質、基礎疾患、円錐切除のタイミング、医師の管理等に問題があると考えられます。術後1年また数年大丈夫でも、更年期から閉経期以降になると、高率に狭窄か閉鎖が起こります。月経がある年代で閉鎖すると大変です。排出すべき月経血が子宮内に溜まり、卵管から腹腔内に逆流して腹膜炎を引き起こす場合もあります(入院治療が必要な場合あり)。子宮口の狭窄または閉鎖が閉経後に生じた場合は、日常生活に大きな問題はありませんが、子宮内膜癌 (子宮体癌)の検査が出来なくなります。私自身はこの問題に20年以上取り組んで来ました。
3.子宮頚管狭窄または閉鎖(子宮口の狭窄または閉鎖)が起こり易い原因:表8
産後1年以内、あるいは授乳中は、術中、術後に大出血するので、この時期に円錐切除を行うことは危
険です。当院では禁忌としています。産後1年経過するまで、治療的組織診で進行しないよう管理しま
す。そして、産後1年以上経過した時点で、高度異形成が改善していたら、円錐切除は行いません(円
錐切除の回避成功)。高度異形成が継続していたら、やむを得ず円錐切除を行います。
4.子宮頚管狭窄または閉鎖予防の対策
[XI]日帰り円錐切除術式の歴史
私自身は、1997年から日帰り円錐切除術式を開始しました。当時はとにかく、高度異形成病巣を取り切る事、術後出血を完全予防すること、これら2点のみを目的とした術式でした。術前にHPVの型も調べず、とにかく高度異形成は全例日帰り手術円錐切除を行っていました。全例異形成を取り切るために頚部(頚管)は12-15mm前後切除、その後の縫合は、子宮口の真ん中を2-3mm開けて、頚管の3時と9時を二重にがっちりと縫合して出血を予防する方法でした。更に40歳以上や、腺異形成では、完治率を向上させるために、頚管を追加切除していました。
2009年頃からの基本方針は、1) 異形成病巣の切除だけでなく、原因HPVの駆除(除菌)もすること、2)妊娠、出産に影響の無いよう切り過ぎないようにすること、3) 2大合併症である、術後の大出血、子宮頸管閉鎖 (狭窄)を予防すること、としました。これらを満たすために、切除する長さを以前より短くしています。私が癌研大塚病院や大学病院勤務時代には、1) 3) を考慮した術式で、頸管切除長は約12-15 mmでした。個人差はありますが、平均的な子宮頸管長は30-35mmですから、1/3以上切除していました。その後の検討で、切り方を工夫すれば、頸管は7 mm切除で95%以上病巣が取り切れることが分かり, 2013年9月から子宮頸管切除長を7 mmにするようなprobe (頚管切除する尖端器具)を作成しました。その甲斐あって、手術の成功率も高いまま、早産riskも大きく改善しました。その後、更なる研究の結果、2021年から子宮頸管を約5 mmで切除、その上方を高周波電気メスで焼灼する方法に改善しました。7 mm切除でも早産のriskは高くはありませんが、5 mm切除であれば、早産のriskは極めて小さいので、妊娠希望のある女性でも安心して手術を受けることができます。頚管の奥に異形成が伸展している場合、頚管5mm切除では不十分です。それを補うために頚管までの拡大蒸散術を行います。治療成績も良好 (異形成治癒切除率 90%以上、HPV駆除(除菌)率 80%以上)で、早産のriskの少ないこの術式を「縮小円錐切除(頚管5 mm切除)+拡大蒸散術」と呼んでおります。この術式であれば、術後出血も希(<1%)で、早産の心配も無いことから、安心して受けて頂くことが出来ます。現時点では、これが当院における主な術式です。
[XII] あらゆる治療をうけても異形成が寛解しない=HPV駆除(除菌)できない患者様の管理と対策(対応):通院前に読んで頂きたい内容です。
1.HPV検査で確認(検出)されたHPVが自然に消失することは先ずありません。無記名でIntranet(日本語のsite)に書かれていることを鵜呑みにしないで下さい。
2.治療的組織診に始まり、円錐切除+拡大蒸散術を行っても、100名の内、約10名 はHPVを駆除(除菌)出来ません。これらの治療でHPVが残存した患者様に対して、子宮全摘を施行した場合、現時点(2023年3月)で17名の内、8名でHPV駆除(除菌)成功、9名がHPV残存。これが現状です。子宮全摘してもHPV駆除(除菌)出来ないということは、膣壁までHPV感染が及んでいるということです。現時点で膣壁感染したHPVを駆除(除菌)する方法はありません。難しいですが、現在当院で考案中です。
3.治療的組織診でのHPV駆除(除菌)率から考えられること:
当院での治療的組織診でのHPV駆除 (除菌)率は、2-3ケ月毎に通院した場合、1年で約60-70%、2年で約70-80%前後です。駆除(除菌)出来ない患者様の特徴は、1) 40歳以上、2) HPV vaccine (Gardasil)を受けていない、の2点です。日本人の多くは20-35歳前後に感染すると予想されます(勿論例外はあります)。実際には感染の時期は本人でも分かりません。40歳以上でHPV駆除(除菌)成功率が低いのは、感染してからの時間が長いため、感染の範囲 (HPV感染は子宮膣部のSC junctionから開始する)が、上方(頭側)は頚管(組織診の検査器具が届かない)、前方は膣壁まで及んでいる可能性が高いからです。頚管は膣部からせいぜい5-10mm程度しか組織診で切除できません。膣壁は血管が豊富で深い組織診は危険です。組織診でHPV駆除(除菌)出来る範囲は、SC junctionから前面は子宮膣部全体で膣壁の手前まで、頚管は子宮口から5-10mm程度までです。HPV感染がこの範囲内に留まっていると、HPV駆除(除菌)可能です。40歳以上の多くの女性では、感染開始から時間が経っているために感染範囲が広いので駆除(除菌)率が低いと考えられます。逆に20代の女性では、感染してからの時間が短いため、1年以内のHPV駆除(除菌)率は90%以上です。感染HPVが5-10種類あっても、あっという間に全てのHPVが駆除(除菌)出来ることも少なくありません。やはり感染開始から治療開始までの時間は大切です。
次にHPV vaccineを受けていない場合の駆除(除菌)に関しては、興味深い結果が得られています。初診時に検出されたHPVは全て駆除(除菌)出来ているのに、初診時に検出されなかったHPVが見つかることも少なくありません。また、初診時のHPVが陰性化していない場合、駆除(除菌)できていないのか、あるいは治療的組織診で駆除(除菌)出来たのに、HPV vaccine受けていないため、また感染したのか不明です。やはりHPV vaccineは絶対に必要です。
4.円錐切除してもHPVが残存している場合:術後に治療的組織診を2-3ヶ月毎に行うと1年で約50%-60%HPV駆除(除菌)可能です。従って、円錐切除後にHPVが残存していても諦めないで下さい。
5.以上の全ての治療を行ってもHPV駆除(除菌)出来ない人はHPV感染者100名の内10名前後です (全年齢を通じて)。これらの内半数は子宮全摘すれば駆除(除菌)可能と予想されます。子宮全摘しても半数はHPVが残ります。頸癌でも無く、ましてや高度異形成でもないのに、HPV駆除(除菌)の目的で子宮全摘を行うか、迷うところです。残存HPVが16または18なら、癌予防(頸癌のみでなく、咽頭、肺腺癌、口腔内の癌の予防も含む)の目的で行うのは理にかなっていると考えられます。残存HPVが16,18以外の場合はご本人の生き方次第だと思います。子宮全摘してもHPV駆除(除菌)率はせいぜい50%程度です。子宮頸癌は予防できますが、子宮全摘した後にHPV型検査を行い、残存している場合は、膣異形成の状態ですから、膣癌予防あるいは膣癌の早期発見のため少なくとも1年に一度は膣細胞診に加え、colposcopy下に膣組織診を行い、厳重管理します。
6.残存HPV駆除(除菌)目的の子宮全摘術式に提言:
一術式を工夫すると、HPV駆除(除菌)率は向上する可能性があります。「子宮全摘」といっても、医師(術者)により技術差があります。癌専門医か一般の産婦人科医が行うかで大分差があります。術式の要点は子宮からつながっている膣の部分を長めに延長 (追加では無く)して膣壁を長く切除することです。癌専門医なら、何cmでも膣壁延長切除可能です。出来れば、進行癌の広範性子宮全摘術の場合と同様に2-3 cm膣壁切除して欲しいです。そうすると、単純な子宮全摘よりもHPV駆除(除菌)率は向上すると考えられます。